第7章 今日からお世話になります
「すみません、ちょっと、化粧を直して来ますね!」
私は、また逃げた。
化粧室に駆け込み個室に入ると、私は腹の中の物を戻した。
十二年だ。
あの事件から十二年が経過しているのに、まだ私は逃げている。
背丈は平均よりは低いが、あの頃と比べれば大きくなり、胸も少し膨らみを持った。
体は成長している。
なのに心がいつも追いつかない。
人並の女性なら、私くらいになれば自立を考え始める頃だろう。
社会に出て、親に恩を返し、たまに友と休日を一緒に過ごしては、誰か良い人は居ないかと愚痴をこぼす。
そんな日常を、きっと、私は赦されていない。
だから、孤独に生きてきた、つもりだった。
なのに状況が変わって、急に人に囲まれて暮らす事になって。
私は――。
私は、どうしたいのだろうか。
昔のように、一人で黙々と仕事をして、それなりの距離を保ってくれる上司の下で働いて、お給金をもらって。
それが、私の当たり前の日常なのだと思ってた。
与えられた仕事をこなし、それなりに役に立って、でもプライベートでは何一つ関与される事が無い。
休みの日は日陰者のようになって、目立たないよう過ごし、一日が過ぎゆくのを待つ。
だが今の私は、昔のように過ごす事を許されていない。
仕事仲間であるアイドリッシュセブンの皆さんと普段、共に過ごし時にはお酒の場にも出席した。
上司も皆さんお優しくて、私なんかの為に気を配ってくださる。
私はそこまでしてもらえるほどの、価値ある人間ではないのに。
つい、迷ってしまう。
今のままでは、いけないのではないだろうかと。
でも、どうすれば良いのか、何がいけないのかが、もうよく分からない。
私は、どうしたいのだろうか。
「山中さん、大丈夫ですか?」
控えめなノックと共に、聞こえたのは紡さんの声だった。
私はトイレを流し、口元をハンカチで拭いて、個室から出た。
「お加減でも悪いんですか? 体調が優れないのなら、早退して頂いても構いませんよ。山中さんの今日の仕事は、私か万里さんがしておきますから」
「いえ、もう、大丈夫です」
鼻が詰まっていて、いつもと違う声が出た。
「とりあえず、口をすすいで化粧を直してから戻ります。すみません、ご迷惑をおかけしてしまって」
私が一歩下がって深く頭を下げると、紡さんは。