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get back my life![アイナナ]

第7章 今日からお世話になります


 あちらを立てれば、こちらが立たず。
 環くんを持ち上げれば、結果的に和泉さんをないがしろにしてしまう事になる。
 いや、私にそんなつもりは、あらへんのやけれども。
 だが和泉さんなら、分かってくれるだろう。
 私は何もしないまま、席に着いた。
 三月くんと逢坂さんも、席に着いて食べ始めている。
 アイドルって、やっぱり忙しいんだろうな。
 朝食の味噌汁を啜りながら、そんな呑気な事を私は考えていた。
 和泉さんが密かに、環くんだけを私が持ち上げた事で傷ついていただなんて、私には微塵も分からなかった。

「行ってきます」
「行ってきまーす」
 和泉さんと環くんが、学校へ行く。
 それを私は笑顔で見送った。
 環くんの機嫌は、あれからちっとも下がっていない。
 和泉さんはいつも通り、クールなご様子だ。
「行ってらっしゃい」
 手を軽く振ると、環くんが嬉しそうに振り返してくれた。
「じゃ、俺達も行ってくるから。戸締まりよろしくな」
 二階堂さんから鍵を渡されながら、今度は残りの皆さんを見送る。
 私の出勤時刻はそこまで早くないので、食器を片付けたりテーブルを綺麗にしてから、一人で寮を出るのだ。
 小さくもなく、大きくもない鍵を確かに受け取って、私はまた笑顔で皆さんに頭を下げた。
「お気をつけて」
 皆さんが靴を履いて、ぞろぞろと順番に寮から出ていく。
「それじゃあ、また夜にな」
 と、三月くん。
 はい、と短く答えた。
 今日の皆さんは、一日中レッスン漬けである。
 対して私は、おそらく事務室の中にほぼずっと居るだろうから、皆さんと顔を合わせる事がきっと無いのだ。
 今日の私の仕事内容は、なぜか紡さんから事前に連絡があった。
 紡さんは外せない長めの会議があったり、社長さんと大事なお話があるらしく。
 今日の朝は、私に直接仕事内容を伝えられないだろうからと言って、ラビチャをくれた。
 ラビチャというのは、早い話、こっちの世界のメッセージアプリだ。
 私は、お気遣いありがとうございますご苦労さまです、と返信しておいた。
 すると紡さんからは、可愛らしい、きなこのスタンプが返ってきた。
 私も適当な猫のスタンプを送っておいた。
 製紙工場では、当然というべきなのか、事務連絡にスタンプなんてお洒落な物は使われなかった。
 だから、可愛いな、と思った。
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