第7章 今日からお世話になります
三月くんが尋ねてくるけれど。
私は、頷く事さえできなかった。
また責められるのが怖い。
微動だにできないでいる私を見て、二人が不思議そうに顔を見合わせる。
逢坂さんが、先に口を開いた。
「大丈夫? もしかして、また具合が悪い?」
「違います!」
大きな声で答えた。
またお仕事をお休みさせられるのは嫌だった。
自分にできる仕事が少なくても、私は私にできる事がある限り、お役に立ちたい。
小さな事でもいい。
役立たずになるのは嫌だ。
だから私は否定した。
「ご飯ですよね、頂きます。伝えに来て下さって、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる。
逢坂さんは尚も心配そうな表情。
私は続けてこう言った。
「熱も無いはずです! 元気です! 何でしたら、おでこ触って確かめてみますか」
ぐいっと逢坂さんに近づいて、前髪を上げる。
「いや、それ以上近づいたらダメだろ」
三月くんが冷静に言う。
そうだった。
私は昨晩の事を思い出す。
二階堂さんからお叱りを受けた私は、あまり不用意に男性に近づかない事と、ボディタッチをしない事を約束した。
あれは、地味に怖かったな。
二階堂さん、なぜか笑顔のままで、見えないプレッシャーを感じて、なんかオーラみたいな物が見えた気がする。
しかも結構どす黒いやつ。
「約束破ったら、お兄さん、一華ちゃんのあ、の、は、な、し。をみんなにバラすからなー? 絶っっっ対に破るなよー?」
・・・・・・あの話って、どの話だろう。
うう、なんか思い出しただけでも緊張する。
ぷるぷる震えていたら、三月くんまで心配そうにこちらを見た。
「なあ一華、本当に元気なのか? さっきから震えてるけど、もしかして寒いのか? 駄目だぞ、これからまだまだ寒くなっていくんだから、温かい格好しておけよ。服とかカイロとかが無いなら、俺のを貸してやるからさ」
「え? あー、いえ。寒くて震えてるんじゃないので、大丈夫です」
この震えは、二重の恐怖心からくるものだ。
一瞬何を言われたのか分からなかったから、変な間が空いてしまったけれど。
私の体は元気だ。
ちょっと寝不足気味ではあるかもしれないけれど。
「あ、朝ご飯でした、よね? 食べます。一緒に下に行きましょう」
私は、寝不足を気取られないように、急いで部屋を出た。