第7章 今日からお世話になります
「今回は多目に見ましょう。でも、次はありませんから。もし、またあなたが夜中に一人で外をうろついたなら、その時は・・・・・・分かっていますね?」
和泉さんの目が光る。
ぎらりと、私を捕らえるように。
私は、残りのコーヒーを一気に飲み干して、すっきりさせた頭でもう一度頭を下げた。
「二度としないと誓います」
「分かればいいんです」
そう言うと、和泉さんは椅子から立ち上がって。
どこへ行くのだろうと不思議に思って眺めていたら。
「なんですか? 何か私に用事でも?」
「いえ。どこに行かれるのかなと思って、見てただけです」
「部屋に戻って学校の支度をするだけですよ。そんなあけすけに人をじっと見るなんて、あなたは失礼な人ですね」
「すみません」
私は申し訳なくなって和泉さんから目を反らした。
テーブルの上には、和泉さんが置いていったコップがある。
これ、私が片付けてしまおう。
コップを洗っていたら、三月くんが降りてきた。
「おはよう一華、もう起きてたのか? 早いな!」
「おはようございます、三月くん。今日はちょっと早起きしてみたんですよ。なんというか、気分?」
「へえ。まあそういう日もあるよな。昨日はよく眠れたか?」
コップを洗い終えて、水を拭き取る。
給湯器を使ったから冷たくない。
私は、眠れたと言って良いのか迷っていた。
その迷いを、三月くんは見逃さない。
「その様子だと、まだ寝てた方が良いんじゃないのか? クマはできてねえみたいけど、仕事中に眠くなったら困るだろ? 部屋に帰って休んでろよ。片付けくらいなら、俺がしておくからさ」
と、言われた。
三月くんは鋭い。
そして気配りもできる人だ。
そういう所、和泉さんとよく似ている。
さすがは兄弟。
だが、その優しさに甘えてはいけない。
と、私は思う。
「片付けは、私にさせてほしいです。私はまだ、何のお役にも立てていませんから」
心からそう言った私に、けれど三月くんは目くじらを立てるように、それは違うと言った。
「一華の悪い所だぞ、それ。何の役にも立ててないなんて悲しい事、言うなよ。俺達は同じ事務所で働く仲間だろ? それとも、一華はそう思ってないのか?」
私は首を横に振り、水を拭き取りきったコップを棚に片付けた。
「仲間だなんて、恐れ多いことです」
