第7章 今日からお世話になります
「和泉さん、どうして・・・・・・?」
心底不思議に思い、疑問が口に出る。
玄関を出た時、私はちゃんと振り返った。
そして誰も居ないのを確認し、扉を開けて寮から出てきたはずだ。
階段を降りた時も、できるだけ物音を立てないように、そっと、そうっと、降りてきた。
誰にも気づかれるはずが無いのだ。
なのに。
和泉さんは、ここに居る。
こんな、真夜中と明け方の境目の、眠りが深いはずの時間に、和泉さんは目の前に居る。
おかしいのだ。
「どうしてと聞きたいのはこちらの方です。ロクに着替えもせず、こんな時間に外を出歩いて。どういうつもりですか?」
私は、パジャマの上にコートを羽織った姿で、外に出てきていた。
それを咎められ、思わず肩を丸めてしまう。
悪い事は何もしていないはずなのに、和泉さんを真っ直ぐ見られない。
和泉さんは、はあ、と大きくため息をついた。
その息が真っ白で、外がどれだけ寒いのかがまた分かる。
「まあ、今は良いでしょう。とりあえず、寮まで帰りますよ。寒いですからね。あなたがまた風邪を引いたら困りますから。さ、早く」
私の左手首を和泉さんが、さっと掴む。
そのまま、半分連行されるように。
急かされて、寮までの数キロメートルを和泉さんと歩いた。
街に光が差してくる。
空が、明るくなってくる。
気づかぬ内に、時間は思いのほか早く、過ぎ去っていたらしい。
私は、夜明けの訪れに、どこかほっとした。
雲は、まばらになっていた。
小鳥のさえずりが聞こえる。
今日は晴れだろうか。
寮に入ると、靴を脱いだ和泉さんが、すぐにキッチンに向かった。
私も靴を脱いでキッチンの前まで入ると。
「コーヒーで良いですか」
と、尋ねられる。
「あの、自分で淹れ」
「あなたはそこに座って待っていて下さい」
言葉を遮られてしまった。
なんとなく、居心地が悪い。
大人しく待っている事もできなくて、でも手を出したら怒られてしまいそうで。
私は、自分がどうすべきなのか、どうしたいのかが分からず。
立ち尽くして、和泉さんの手元を見ていた。
ただ、なんとなく。
「今日はどうして外へ出たんです?」
仕方がないとばかりにため息を盛大に吐き出した後で、和泉さんが私に尋ねてきた。
「・・・・・・悪夢を、見て」