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get back my life![アイナナ]

第7章 今日からお世話になります


 嫌な、夢を見た。
 夢の内容はあまり覚えていないけれど、止まらない冷や汗が私に、悪夢を見た事を教えてくる。
 ああ、またか。
 と、思った。
 私は月に何度か、悪夢を見て目を覚ます事がある。
 だから、どこか慣れてしまった所があった。
 こんな時は、夜空を見上げるのが一番気分転換になる。
 幸い、今日は風邪を引いていない。
 夜道を散歩しても、誰にも叱られないはずだ。
 私は布団から出て、部屋を抜け出し、階段を静かに降りて、玄関の扉をそっと開けた。
 後ろを振り返る。
 よし、誰も居ない。
 私は、寮から出て行った。

 真冬の夜は肌寒いどころでは無く、地元よりも更に寒いように感じた。
 空を見上げてみると、残念ながら曇っているのか、月さえもおぼろげにしか見えない。
 私は、仕方なくその辺を歩く事にした。
 鳥居先生から借りたお金で、買ったコートは温かい。
 はずなのに、冷や汗をかいた後だからなのか、ここが東京だからなのか。
 私は両腕をさすりながら、寒空の下を歩いていた。
 その行動にあまり意味は無いけれど、動かずに居る方が死んでしまう。
 とことこ、と歩く。
 幸い風は無い。
 けれど。
 さすがは真夜中だ。
 昼間はあんなに沢山居る人々も、この時間では一人も見当たらない。
 寂しい訳ではないけれど、早く夜が明ければ良いのにと思う。
 あと、春にも来てほしい。
 別に冬が嫌いな訳では無い。
 冬はイベント行事が沢山あって、イルミネーションされた街をテレビで眺めると、綺麗だなと思う。
 私自身が冬生まれなのもあるかもしれないが、私は冬という季節の特別感が好きだ。
 好き、なはず、なのに。
 いつからだろうか。
 冬のイベントが来ても、雪が降りしきっても、仲の良さそうな恋人達の姿を見ても。
 心から楽しむ事ができなくなっていて。
 こんな事を考えてしまうのは、私が鬱病だからだろうか、空がどんより曇っているからだろうか。
 しばらくそんな事を思っていると、唐突にくしゃみが出る。
 ・・・・・・帰ろう。
 私は踵を返し、元来た道へ戻る。
 眺める物も特に無い。
 家宅の自製イルミネーションを見たって、虚しくなってしまうだけ。
 下を向いてとぼとぼ、と歩いていたら。
 前から、声がした。
「あなたは、放浪癖でもあるんですか」
 冷たさの中に温かさのある、和泉さんの声だ。
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