第1章 落ちて拾われて
「女の子に簡単に手を出すのも、出されるのも。アイドルとしてウチの事務所では認められない」
その一言で、空気がピリついた。
詳しい事は分からない、でも。
これはきっとヤバい状況になった。
眼鏡の人は鷹のように目を鋭くして、ますます私の肩身を狭くさせる。
社長さんは、一体なにを考えてるんだ。
アイドルに迷惑をかけるなと最初言われた気がするが、これでは逆に私が面倒事を持ち込んだようなものだ。
いや、その通りなんやろうケド!
元はといえば、お医者さまが勝手に色々と動いたせいであって、私は何も悪くあらへんもん!
・・・と強く思い込めたら、どれ程ラクだった事か。
こういう板挟みになった時って、すごく自分の年齢を実感させられる。
自分を保守する為に他の全てを切り捨てて、我が儘を通すほど大人でもなければ。
置かれた立場や状況を鵜呑みにして、ズル賢く長いものに巻かれるほど子供でもない。
こういう時、私はどんな自分を演じれば良いか分からなくなる。
どう取り繕えば、この状況を打破できる?
流れに任せてピエロになるか、悲劇のヒロイン気取りで訴えるか、牙を剥いた獣のように怒ってこの場から去るか。
どの案も、得策じゃない気がする。
かといって、長く沈黙を保っていても何もならない。
何か話さなきゃ、一歩間違えれば地獄行きだとしても、私を守れるのは私しか居ないんだから。
彼らの、私を品定めするような目が怖い。
主要キャラの代役に急遽使命されて、舞台へ無理矢理引っ張り出されたような気分。
それでもやるしかない、がんばれ、私!
「皆さんの懸念は、ごもっともだと思います」
まずは、相手の気持ちを受け入れる言葉を言った。
大丈夫、気だるげな子と赤い目の元気な子は、賛成してくれてたんだから。
自分で自分を励ましながら、席から立ち上がって次の言葉に繋げる。