第7章 今日からお世話になります
ゆらゆら、ふわふわ、まどろんでいる。
これは夢だと、分かっているつもりだ。
なのに、目は覚めない。
見せられるのは、あの日あの時の光景。
女優さんのお腹を、グサリと刺した、あの時の光景。
事故だった、では済まされない。
女優さんは、出血多量で死んでしまった。
この時の光景を、繰り返し繰り返し、見せられる私。
逃げたいと思っても、嫌だと叫んでも、夢は私を捕らえて離さない。
だから、これは天罰だと思っている。
私は、取り返しのつかない事を、してしまったのだから。
舞台の床と、女優さんのお腹に広がる赤。
小鳥役の私は、倒れる女優さんを見下ろして、舞台に背を向けている。
漂う鉄の匂いには、緊張で気づかずに、私は女優さんに教えられたセリフを発した。
まずは、くすりと笑う。
その小さな声は、狭い静かな劇場では、簡単に響いた。
「ああ、なんという事でしょう!」
客席に振り返って、両手を大きく広げる。
「ううっ・・・・・・」
うめき声を女優さんがあげる。
でも私は気づかない。
「お姫様は、私をただの小鳥だと思い込んでいる! けれど真実は違う! 私はお姫様で、お姫様は私! だから私達が入れ替わるには一度こうしなければいけないの!」
そして、右手に持っていた赤い短剣を、今度は私のお腹に突き立てる。
ぐさり。
肉を断つ感触がして、私は一瞬、何が起きたのか分からなかった。
幼い夢の中の私は、女優さんの前で倒れる。
照らされていたスポットライトが消えて、大人達の騒ぎ声がした。
幕が降りる。
大人達が、女優さんに駆け寄る。
女優さんが運ばれていく。
ぐったりとした女優さんが。
舞台の床は、一面真っ赤に染まっていた。
「血が、止まらない!」
焦る大人達。
舞台袖に控えていた、他の子供達は泣いている。
私は、舞台上に取り残されたまま。
なんとか起き上がって、お腹に力を入れる。
血が、噴き出ていた。
「こうして、お姫様と小鳥は一緒になりました」
痛みで涙が出る。
けれど、舞台はまだ終わっていない。
幕の向こう側では、観客達のどよめきが伝播しているのが、こちら側まで伝わってきた。
お腹が、熱い。
「お姫様は小さくなり、小鳥と同じ姿になって、塔から抜け出る事ができたのです。代わりに小鳥は檻の中へ入り、そのまま死んでしまいました」
