第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
陸くん、九条さんの事大好きなのかな。
兄と慕うほどに。
と一瞬の後に、ああそうだったと思い出す。
九条さんと陸くんは、苗字が違うけれど、ご兄弟なんだった。
双子で産まれて、兄が九条さん、弟が陸くん。
陸くんが弟っていうのはすごく、なんかこう、しっくりくる。
私の弟なんて、愛想無いし無口だし可愛げなんてどこにも無いけれど。
陸くんは愛想良くて、ちょっぴり寂しがり屋で、どこにでも居る弟って感じがする。
うわ、ウチの弟めっちゃ弟っぽくないやん!
「ウチの弟も、陸くんくらい人懐っこかったらなぁ」
願望がつい口に出てしまい、あ、と声が漏れた。
これは人に言う程の事でもない。
「なんでも無いよ、気にしないでね陸くん、ごめんね」
右手を顔の前で立てて、頭を軽く下げる。
「何がごめんね、なの?」
そう真正面から聞かれると、うぐ、っとまたうなり声が出る。
それ以上何を言えば良いか分からず、私は玄関から無言で上がった。
さてどう取り繕おうかと考えていたら、あっという間も無くリビングまで着いてしまう。
ここで何か言わねばならない気がして。
私の後を着いて来ていた陸くんを振り返る。
陸くんは変わらず、不思議そうな顔をしていた。
私は陸くんに近寄って、その温かい手を両手で握る。
「私ね、弟が居るの。全然可愛くない弟だけど、こんな風に手を繋いで、一緒に歩いた日もあったんだ。私の弟は庵っていう名前で、よく女の子みたいな名前だってからかわれてた。私は、そんな弟を見てる事しかできなくて。今思えば、お姉ちゃんとして、もっとちゃんと守ってあげたら良かったなって思うの」
庵と書いてあん、と読むその名前を、私の弟はずっと嫌がってた。
私は、中性的な名前ってかっこいいと思ってたんだけど。
それを、直接言うタイミングも無くて。
言おうと思えばいつでも言えたはずなのに。
私は、そうしなかった。
自分自身の事ばかり考えてたからだと思う。
だから、なのかな――。
私は、陸くんの手を自分の頬に当てた。
「弟に優しくできなかった分、優しい皆には、こうやってお姉さんが優しくしてあげたいな。陸くんの手、本当にあったかいね」
その手は確かに男の子の手で、硬くて、骨がしっかりあって、でもどこか柔らかくて。
私はその手に、頬をすりすりとしていた。
