第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
私は、渡された薬を思い出す。
一つは、精神安定剤。
これでうつっぽい感情が少しラクになるらしい。
一つは、睡眠導入剤。
眠れない時に飲むと良いらしい。
最後に胃薬。
胃が薬で荒れるのを防ぐ物らしい。
全部で三種類の薬を私は処方された。
これらを飲み続けていれば、いずれ鬱病が良くなると、心療内科のお医者様には言われたけれど。
私は、お医者様を信用していない。
お医者様にも、きっとそれは伝わってるだろうけれど、そんな事はどうでも良かった。
私は、隣で運転してくれている鳥居先生を、ぼんやり見ている。
鳥居先生は前やバックミラーを見るので忙しそうだ。
私達は今、寮に向かっている。
紡さんに連絡するべきかどうか分からず、私はポケットに入れている携帯を取り出して良い物かどうか迷っていた。
「何か悩んでる?」
突然の鳥居先生からの質問。
私はそれに、少しびっくりしながら。
二度瞬きしてから、暗い前方を見て答えた。
「考え事です」
「不安かい?」
「それは・・・・・・」
正直、不安はある。
でも、それを伝えて良いのかどうかは分からない。
それに、何が不安なのかも分からない。
答えられずに居ると、鳥居先生はフッと笑う。
「まあ、不安だろうね。でも一つずつ物事になじんでいくと良いさ。そうすれば、きっと上手くいく。日本のアニメ映画で、こんなのがあるのをあたしは知ってるよ。トンネルの向こう側は神様の街で、迷い込んだ女の子が最後にはその街から、両親と一緒に帰って行くんだ。しかもそれは夢の話なんかじゃない。あんたもその女の子みたいなモンかね。意外と肝が据わってて、目標を決して見失わない。ちょっと不器用で経験足らずだけど、努力家で、ひたむきで。あたしはそういう子、好きだよ」
「それはあくまで、映画のキャラクターの話ですよね。私はキャラクターじゃありません。実際に、ここに居てここで生きています」
仮想の人物と同じだと言われて、私は良い気がしなかった。
だって、私は私だ。
ドッペルゲンガーでも居ない限り、唯一無二の存在であるはずだ。
それなのに、まるで私が、架空の存在かのように言われるのは、嫌だった。
鳥居先生にそんなつもりが無かったとしても、私は嫌だった。
鳥居先生は、私の方をちらりと見て。
「ソーリー」
とだけ言った。
