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get back my life![アイナナ]

第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある


「良いよ、おいで」
 鳥居先生が私の左腕を掴んで連れ出してくれる。
 私は一瞬振り返って、皆さんに頭を下げた。
 紡さんにも、後でお話しないと。
 と思いつつ、私は鳥居先生に着いて行く。
 寮の外は真っ暗だった。
 凍えそうな寒さに身を震わせる。
「ここで待ってるかい? それともあたしに着いてくる?」
 聞かれて、私はすぐに頷いた。
「着いて行きます」
 こんな寒さの中動かなかったら、どこか誤って死んでしまいそうだ。
「こっちだよ」
 鳥居先生は道路を渡り、ほんの少し遠くの駐車場まで私を着いて来させた。
 暗闇の中、光る金髪を目印に歩いていく。
 鳥居先生の歩くスピードは早かった。
 ついて行くのがやっとの事で、私は鳥居先生に話しかける余裕が無い。
 歩きながらでも話せると思い込んでいた私にとって、誤算だった。
 車まで着いて、車内にうながされるまま中に入る。
 助手席に座ると、鳥居先生もすぐ運転席に座った。
「このまま病院へ向かうよ。良いね?」
 質問されたけれど、今の私には答える気力も無く。
 頷く事もせずに、シートベルトを締めるように言われる。
 これでもし私が嫌だと言ったら、鳥居先生はどうするのだろうか。
 意味の無い仮定の話が頭に浮かぶ。
 鳥居先生は車をゆっくりと発進させた。
 暗い道の中、車のライトが前方を照らす。
 突然横切る影も無く、誰かとすれ違う事も無く。
 私達は心療内科に着いた。
 その間に話さなければと思っていた新しい家の事を、私は一つも言い出す事が出来ず。
 気づけば病院の駐車場に着いていた。
「さ、行っておいで」
 鳥居先生が言う。
 私は鳥居先生に促されたが、シートベルトを外しもしない。
「どうしたんだい? 早く行っておいで。あたしはここで待ってるから」
 二度も促されては従う他ない。
 私はシートベルトを外し、重い腰をあげた。
 心療内科に通うというのは、私にとってはハードルが高い。
 行きたくない。
 そう正直に言えたなら、どれ程心がラクだったろう。

 心療内科の先生と会い、簡単な問答をして帰ってきた。
 眠れているか、食事は取れているか、薬は体に合っているか、何か困った事はないか。
 そんな質問に、私は面倒くささを感じながら答えた。
 嘘は言わず、だからといって素直に内面をさらけ出す事もしない。
 困った患者だと思う。
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