第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
渾身のギャグを繰り出したつもりが、盛大にスベったのか誰も笑ってくれない。
私は咳払いをしてから、大人しく鳥居先生に聞かれた質問に、真面目に答える事にした。
「ここでは、話したくありません。鳥居先生にだけなら、お話できます。皆さん、ご心配おかけして、申し訳ございません」
頭を深く下げる。
そんな私の後頭部を、ぽんぽんと撫でてくれた手があって。
私は驚きと共に、顔をあげて隣を見た。
私の頭に手を置いていたのは、二階堂さんで。
私は、きっと善意でされたであろうその行動に、子供扱いされたような複雑な気持ちを抱えた。
良い気分じゃない。
それが顔に出ていたのか、二階堂さんは私の頭から手を離し。
「悪かった」
と、言われてしまった。
私は誰かにあやしてもらわなければならないほど、子供じゃない。
でも、胸を張って大人だと言い切れるかと言えば、それはまた別の話で。
ここは大人として、同い年として、どう振る舞うのが正解なんだろう。
と、考え込んでしまう。
二階堂さんをまじまじと見つめつつ、両腕を組んでじっくり考え事をしていると。
「いや、ホント、スミマセン。もうしないから。一華もイチも、そんな顔で俺を見ないでくれ」
心底申し訳なさそうに二階堂さんからそう言われて、私はまず組んだ腕を解くより先に、和泉さんの顔を見た。
・・・・・・かなり険しい顔をしていた。
私もあんな顔をしていたのだろうか。
だとしたら少し二階堂さんに申し訳ない。
が、ふと違和感を覚える。
惹かれるな、と忠告してくれた二階堂さんが、私との距離をわざわざ詰めようとしている理由。
思いつく物が一つだけある。
が、私という存在は社長から見れば、手を出すのも出されるのも許されない人間だ。
そんな危険人物に、自ら歩み寄ろうとしているのはなぜか。
分からない。
今は。
でも、後になって分かる事なのかもしれない。
だが私は、何よりも。
この平穏な時間が、惜しくなってしまっているのではないか。
だとしたら恐ろしい事だ。
距離を保って接していかなければならない人達に囲まれていて、なのに私の心がそれを良しと思っていないのなら。
――私は、さっさとこの寮から出るべきだ。
「鳥居先生、お話があります」
左隣に立っていた鳥居先生の、緑色の目を見て私は言う。
