第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
二階堂さんの涙がおさまって、顔を上げてくださったのを見て私は、おずおずと話始める。
「あ、あの・・・」
でも、いざとなるとどう話して良いのか分からず、すぐに口を閉じた。
二階堂さんが不思議そうな目でこちらを見下ろして、しばらく私を観察した後。
「どうした?」
優しく問いかけられて、私も覚悟を決める事ができた。
「あの、三月くんの事、聞かないんですか?」
私は、三月くんを傷つけてしまった。
八つ当たりのような形で、大の大人が感情的に怒鳴ったのだ。
許されて良い事ではない。
と、私は思っていたのだけれど。
「ミツの事? ああ、お前さんが急にキレたヤツな。大丈夫だろ、ミツは優しい男だし。お前さんも、本心じゃないんだろ? なら問題無しだ」
ケロっと、あっさりと、そう言われてしまった。
「でも、謝らせてもらわないと・・・」
なおも食い下がる私に、いいよいいよ、と二階堂さんは言う。
「謝られた方が困る事もあるからさ、気にしなさんな」
そう言われてしまえば、これ以上何も言えない訳で。
でもその言葉に、私は納得が出来なくて。
こう尋ねた。
「謝ってしまうと、どうなるのでしょうか」
「そうだなー。ミツの事だから無下にはしないだろうけど、そんな事くらいで謝られても、良い気はしないと思うよ、お兄さんが思うには」
と、説明されてようやく。
私は、ああそういう事もある物なのだな、と思えた。
私は二階堂さんに、感謝の意味を込めて深く頭を下げる。
「ありがとうございます、色々と。それから、ウチはこんな感じで頭悪い所、気が回らへん所あるから、またそういう時は教えてもらえると助かるんやけども」
「へえ、それがお前さんの素なんだな」
ニヤリと笑われながら、二階堂さんに言われる。
素? 素って何?
クエスチョンマークが浮かんでいるのが顔に出てたのか、二階堂さんは優しい目で私を見下ろしながら、説明をくれた。
「話し方、方言ってヤツだよ。お前さんによく似合ってる。これからは敬語も使わなくて良いぞ。同い年だろ?」
クツクツと笑いながら、二階堂さんが嬉しそうにそう言ってくれた。
でも、私は。
「すみません、すぐに敬語を外してお話しさせて頂くのは、ちょっと難しいです」
「いいよいいよ、そんなの。人には向き不向きがあるんだからさ」
二階堂さんも、やっぱり優しい人だった。
