第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
二階堂さんは、うなじをぽりぽりと、かいていた。
その仕草に、私と同い年とは思えない幼さを感じて。
くすっと、思わず笑ってしまった。
「な、なんだよ」
「いえ! 何でも、何でもありません!」
何だか分からないけど恥ずかしくなって、下を向く。
もちろん床には絨毯が敷かれていたりなんてしないものだから、景色はほとんど変わらない。
ちょっと変わった事といえば、二階堂さんの長い脚が見えるくらい。
二階堂さんが、はぁ、と大きく息をつく。
「よし」
小さな声で呟かれた。
「あ、あのさ。知ってるだろうが俺は一応、アイドリッシュセブンのリーダーなんだ。それで、メンバーを守りたい一心であんたを危険視してた。でも、一緒に酒を飲んだ時、あんたは俺の隣に座って、話に付き合ってくれただろ? 風邪引いてたのにさ。それで、あんたへの印象が変わった」
そこまで話して、二階堂さんが息を吸う。
「本当にごめん! これからはあんたへの態度を改めるよ。冷たくして悪かった。俺なりに必死だったんだと思う。急に女の子が一緒に住む事になって、過度に警戒してた。あんたが俺達に危害を加えようとしてないかとか、俺達の輪を乱す存在になるんじゃないかとか、変な事ばっかり考えて、あんたの気持ちなんて考えてなかったんだ。女の子がたった一人きりで、知らない場所で一生懸命生活しようとしてんのに、俺は助けるどころか無下にした。ちゃんと謝らせてくれ。今まで、本当に、すまなかった!」
勢いよく頭を下げられて、私は避けるように後ろへ足を引いた。
二階堂さんの後頭部が見える。
私はどうして良いのかわからず、周りを二、三度見回した。
もちろん、誰も居やしない。
私は、今度は二階堂さんの肩を掴んだ。
そしてまた首を左右に振る。
それで精一杯だった。
かけるべき言葉なんて分からない。
「許してくれ」
「!」
驚いた。
それから、私は両手を胸の前に持ってきて、心臓を掴むようにぎゅっと握る。
「ゆ、ゆるします」
「・・・・・・ありがとう」
二階堂さんは、顔をあげなかった。
涙が床に落ちた音がして、二階堂さんが泣いている事に気づいた。
私は、二階堂さんの肩を、右手でそっと触れた。
二階堂さんは逃げない。
その肩を、ゆっくりさすってあげた。
それくらいしか、出来る事が思いつかなかった。
