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get back my life![アイナナ]

第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある


 嫌を言う理由も何もなく、特に考える事もせず、こくりと頷く。
 二階堂さんは私の部屋のドアノブをひねり、私の部屋の中へ私を招いた。
 私がとことこ部屋の中央まで入り、二階堂さんを振り返る。
 二階堂さんは黙って部屋の扉を閉めた。
 鍵はかけていない。
「この間は怖がらせて悪かったな」
 まず言われたのは謝罪だった。
 知らず上がっていた私の肩が、僅かに下がる。
 びっくりした。
 まさか、そんな言葉を聞く事になるなんて、思ってもみなかったから。
 私は少しだけ考えて、それから答えた。
「いえ、お構いなく。私がどこの誰かという問いに関して、適切な答えを持っていない私も悪いのだと思っていますから」
「そう、か。なら、無駄に混乱させちまったんだよな、俺は。本当ごめん」
 二階堂さんが頭を下げようとする。
 私は慌てて二階堂さんの前まで駆け寄って、二階堂さんの両腕を掴んで、首を横に振った。
「おやめくださいませ。私はそのような態度を取られるにふさわしい身ではありません。どうか、顔を上げて下さいまし」
 心からの言葉だった。
 二階堂さんは、それでも頭を下げた。
「お前さんがどうとか、そういうんじゃない。謝らなきゃ俺がみじめになる。謝らせてくれ」
 そう言われては、止める術もなく、私は二階堂さんの両腕から手を離した。
「・・・わかりました。だから、どうか顔を上げて下さい」
 人に謝られるなんて、落ち着かない――。
 二階堂さんは、ようやく私の目を見て、顔を上げてくれた。
 さっき、目が、合った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 お互い話さない。
 話しづらい事なのか、私がそういう空気を作ってしまっているのか、二階堂さんはゆっくり私から顔を反らした。
 私も、何となく横を向く。
 殺風景な物の無い部屋は、私に決して逃げ場所を与えてはくれなかった。
 考える。
 二階堂さんが話したい事は、きっとこれだけじゃない。
 でも、真っ先に謝罪をしてくれたという事は、もう私を敵視していないのかもしれない。
 嫌われて、いない?
 だとしたら、これ以上素晴らしい事はない。
 わたしもさっき、自然と二階堂さんの腕に触れられた。
 これはきっと、進歩なのだ・・・と、思う。
 多分。
 でももし、まだ嫌われていたら、私はどうすれば良いのだろうか。
 二階堂さんをそっと伺い見る。
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