第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
私が犯した罪は重い。
人を一人殺してしまった。
両親は言った。
「あれは仕方が無かったんや」
「あれは事故なんや」
と。
違う。
私は頭の片隅で理解していたはずだ。
仕方なくなんて無い。
事故なんかじゃない。
あれは私が蒔いた種だ。
そして、彼女が蒔いた種だ。
その種が根づき、芽吹き、華を咲かせた結果が彼女の死なのだ。
私はその死に加担した。
これは紛れもない事実。
だから私は、人と距離を取って生きていた、つもりだった。
罪を犯した私が、誰かと仲良くするなんて、許されない事だと思ったから。
私は、ドライな関係を保って生きていた、つもりだった。
実際は、きっとその逆で。
距離を保たれていたのは私の方。
周囲の方から、進んで距離を取られていたのだ。
その事に、今の今まで気づかなかった。
どうして気付けなかったんだろう。
後悔が今更になって込み上がる。
悔しい。
でも泣いてはいけない。
私にその資格は無い。
彼女もきっと許さない。
私は無理矢理にでも、前を向いたフリをして生きていかなければならない。
息を吐く。
吸う。
気持ちを引き締めて、私は部屋から出た。
トリガーの皆さんを、お見送りしなければ。
ドアノブをひねり、一歩踏み出す。
トリガーの皆さんは、何事も無く帰って行った。
迎えに来て下さったのは、トリガーのマネージャーの姉鷺カオル、という人。
すらっとした高い背に、大人っぽい顔立ちで、どこか迫力感のある人だった。
私がシンプルに憧れる、格好良い女性だ。
女性、だと思う、多分。
姉鷺さんは、車をすぅっと滑らかに、けれど素早く運転して。
トリガーの御三方を乗せて走り去った。
次の合同レッスンは三日後だ。
私は、走り去る車に向かって、深々と頭を下げた。
車が見えなくなると、寮に戻る。
リビングに上がると肩を叩かれた。
二階堂さん。
思わず唾を飲み込む。
「今から、良いか?」
短い言葉だった。
私がはい、と頷くと、二階堂さんは階段を上がっていく。
私はその後ろ姿に着いて行った。
いよいよだ。
何の話だろう。
怖い話かな。
辛い話かな。
厳しい話かな。
不安しか出てこない。
ドキドキする。
着いたのは三階の、私の部屋の前だった。
「ここで良いか」