第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
そう聞かれて、私の顔はぼっと火が出るように赤く染まった。
見られてた。
見られてた見られてた見られてた見られてた見られてた・・・!
あんなボロ泣きしてた所を、まさか他の誰かに見られていたなんて。
和泉さんに正直に話すのも勇気が必要だったのに、二階堂さんにまで見られてた?
どうしよう、何て言い訳しよう。
あれは嘘だと言う?
いいや、それはきっと通用しない。
なら何と言って誤魔化そうか。
私は自分の保身の事で頭が一杯になって。
二階堂さんへの恐怖心を、ほんの少し忘れる事ができていた。
「あああ、一華さん? おーい」
いつの間にか目の前に来ていた二階堂さんが、私の顔の前で右手をぷらぷらと振っている。
私は驚いて、ひっと変な息の吸い方をしながら、思わず一歩後ずさっていた。
「な、なんでしょう」
「一言、言いたくてさ。イチの為にもアンタの為にも」
「・・・?」
どこか歯がゆそうに話す二階堂さんの姿は。
私の第一印象と、かけ離れていて。
少し冷静さを取り戻していた私が、二階堂さんの次の言葉を待つ。
「なんでしょうか」
「あんまり親しくなり過ぎるなよ。イチは、気づいてると思うが優しい奴だ。優しくて、不器用で、建前だけはしっかりしてる。だから惹かれる所もあるだろう」
惹かれる。
それは人としてという事だろうか。
それとも。
「だが、俺達はアイドルだ。アイドルに恋愛は許されない。社長も言ってただろ。手を出すのも、出されるのも、アイドルとして認められないって」
「・・・・・・」
それは、その通りだった。
私は和泉さんとの距離感を計っているつもりだった。
むしろ遠さを感じていたくらいに。
でも現実は、その逆だったようで。
私は和泉さんに、きっと大切にされている。
そこに甘えてはいけないのだと、二階堂さんは私に忠告してくれているのだ。
二階堂さんから言われて、はっとした部分がある。
私は、人との距離感を、きっと計り違えているのだろう。
いつも私は、周囲から自然と距離を取られながら、毎日を過ごしていた。
学校でも、部活動でも、職場でさえも。
今までいつだって、距離を保たれて生きてきた。
だから私には、距離感なんて物、分からないのだ。
もう、和泉さんや他の方々との距離を、計り違えないように。