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get back my life![アイナナ]

第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある


 和泉さんに励まされて、私の涙はしばらくするとおさまっていた。
 和泉さんがいつものクールな顔で、私の部屋から去っていく。
 私は、和泉さんが見ていようがいまいが、その背中に深くお辞儀をした。
 小一時間経った頃だろうか。
 皆さんが、のどが渇き始めたらしく、私の部屋まで来て飲み物を飲んでいく。
 その中に、二階堂さんの姿もあった。
 じっ、と。
 二階堂さんからなぜか見つめられている。
 話したい事があるけど人前では話せない事を考えているような、そんな感じの不思議な顔だった。
 私は居心地がなんとなく悪く感じてしまって、指先を遊ばせる。
 手が震えていた。
 どうやら、私は私が思っていた以上に、二階堂さんの事が怖いらしい。
 そんな私の様子には、幸いな事に誰にも気づかれていないようだった。
 陸くんが、無邪気に私に話しかけてくる。
 こんなレッスンをした、こんな事を教わった、こんな事を言われてムッとした、こんな雑談をして過ごした。
 色々と話しかけられて、その度に相槌を打つけれど、話の内容は全く頭に入ってこない。
 私は、失礼ながらこの時間が早く終わってくれれば良いのにと思って、耐えていた。
 皆さんがばらばらに、レッスンへ戻る為に私の部屋から出ていく。
 最後に残ったのは二階堂さんだった。
「陸、そろそろ行くよ」
 と、何気なく彼に声をかけた九条さんに、もう少しだけ待ってほしいと言えたなら、どんなに良かった事か。
 私は、気まずさと恐怖心から、二階堂さんの方を見る事ができない。
「お兄さん、さっき見ちゃったんだけどさ」
 そう声をかけられて。
 その声に棘は全く無かったのに、私は肩をびくっとさせてしまって。
「悪い、怖がらせるつもりは無かったんだが」
 そう言われて、ようやく二階堂さんの方を見る。
 うなじに右手を回し、眉尻は下がっていた。
 ああ、困らせているんだなと分かって。
 意を決して二階堂さんの目を見る。
 その目は、私を見ておらず、申し訳無さそうに床の方へ向けられていた。
 なんだ、二階堂さんも気まずいのか。
 私はやっと肩の力を抜いて。
「どうなさいましたか?」
 と、聞く事ができた。
 すると二階堂さんは急に私の目を直視してきて、瞳を輝かせる。
「さっきさ、イチと話してただろ、二人で。この部屋でさ」
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