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get back my life![アイナナ]

第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある


 私の弟も、小学生の頃はよく怪我をして家に帰ってきた。
 両親が理由を聞くと、友達とちょっとした喧嘩になったと言う。
 喧嘩の内容は、両親がどんなに問いつめても、弟は教えてくれなかった。
「アイツらが悪いんだ」
 ボソッと、そんな事を呟いて自分の部屋に逃げ込んだ弟の、まだ小さかった背中をよく覚えている。
 男の子というのは、秘密主義的な所があるらしい。
 陸くんに聞けば、意見交換の内容も、きっと教えてくれるのだろう。
 でもそれは、きっとあまり良くない事だ。
 私は、何も聞かずに和泉さん達の部屋から出ていった。

 次に訪れた環くん達の部屋でも、三月くん達の部屋でも、同じように「なんでもない」と言われてしまった。
 そう言われてしまえば、私に詮索する権利なんて無いので、黙って引き返して来るしか無かった。
 聞いて回ったのが私じゃなくて紡さんだったなら、きっと皆さんご説明下さったのだろうな。
 そう思うと、なんだか自分が頼りなく思えて、思わず笑みがこぼれた。
 ああ、なんと情けないこと。
 私はこれでも二十二歳だ。
 十さん、八乙女さん、二階堂さんを除いた、おおむねのメンバーよりも歳上なのだ。
 だというのに、私は何も信頼されていない。
 ああ、なんと情けないこと。
 私は自室に帰ってくると、雫がこぼれ落ちてくるのをこらえきれなかった。
 もっと頑張らないと。
 このままではいけない。
 このままでは、何も出来ない。
 せっかく紡さんから仕事を任されたというのに。
 何という有様だろうか。
 自責の念に駆られていたら、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
 慌てて涙を拭うけれど、泣き止む事が出来ない。
 これでは心配をかけてしまう。
 もう一度ノックの音がする。
 けれど私は応えられない。
 ガチャリ。
 と、扉が開くのと、失礼しますという和泉さんの声がするのとは、ほぼ同時だったように思う。
 和泉さんは、扉に背を向けて顔を覆う私の前まで回り込んできた。
「どうしたんですか?」
 それは、思いがけない程優しい声だった。
 私は、自分が不甲斐なくて、不甲斐なくて。
 何も考えずこう返した。
「なんでもありません」
「なんでもない訳がないでしょう。話して下さい。ちゃんと聞きますから」
 寂しいじゃないですか。
 と、言われてはっとした。
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