第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
「ところで、それは何ですか」
指をさされて聞かれたのは、ビニール袋。
「飲み物です」
「見れば分かります。そういう事ではなく、なぜ飲み物を買って来たのかを聞いているんです」
「ああ、そういう意味ですか」
さっきの聞き方では、物を尋ねられてると思うのが普通だと思うけれど。
そこは深く突っ込まないでおこうと考えていたら、和泉さんがふと柔らかく笑って。
「気を回して買ってきて下さったんですね、多分。でもご心配なく。自分の飲み物くらい、皆さん自分で用意できますよ」
と、少し馬鹿にされた。
なのでちょっと私はムキになって、言い返す。
「トリガーの皆さんは、そうじゃないかもしれませんよ?」
何気なく言った反論に、和泉さんの口が塞がってしまう。
ああ、ちゃうねん、気を悪くするつもりは無かったんや。
と、思って首を横に振ろうとすると、和泉さんは右手の甲を口元に持っていって、顔を顰めた。
「それは、そうかもしれませんね。すみません。私が間違っていました」
その唇から出た言葉はすごく素直なのに、彼の表情はそうは言っていない。
とりあえずここは謝っておこうと思い、軽く頭を下げる。
「なんか、すみませんでした」
「謝らないでもらえますか?!」
逆ギレされてしまった。
ペットボトルを一人で運ぶのは大変だろうから、と和泉さんがビニール袋を持って三階まで運んでくれた。
好きな飲み物を好きなタイミングで飲める方が良いだろうから、飲み物は全て私の部屋に運び入れる。
ご迷惑じゃないですか、と心配してくれた和泉さんに、私は笑顔で首を横に振った。
「私は新人やから、出来る事は少ないやろなぁと思う。でも、できないなりに頑張りたいから、お茶汲み係くらいはさせてほしいんです」
「あなたという人は、本当に・・・」
と、和泉さんが何かを言う。
多分、また馬鹿にされているのだろう、非効率だとか何とかって。
なので聞こえていないフリをする。
トリガーの皆さんには、そのあとそれぞれの部屋を回り、飲み物の種類と場所を伝えた。
和泉さんはすぐにレッスン部屋へ戻って、私はキッチンまで紙コップを取りに降りていった。
三階まで戻ってきた頃には、既にレッスンが始まっていたようで、別々のカウントや音が聞こえる。
それらに耳を傾けながら、私は自分の部屋で待機していた。
