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get back my life![アイナナ]

第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある


 体力、落ちたのかな。
 しばらく風邪を引いていたし、肉体労働もめっきり減ったし。
 もしそうだったら嫌だなぁ。
 玄関先で、そんな考え事をしていたら、荒くなっていた息が少しはラクになっていた。
 荷物を持ってリビングへ入ると、テーブルに誰かが座っている。
「おかえりなさい。買い出しに行って下さってたんですね」
 テーブルの上で開いていた雑誌をパタンと閉じて、和泉さんが言う。
 私は和泉さんの隣まで歩いて行き、何の雑誌を見ていたのかを覗き見る。
「ただいまです。前のと同じやつですね」
 和泉さんの手にあるのは、以前も彼が見ていた家具雑貨の雑誌だ。
 前に見た時より付箋の数が増えている。
「やっぱり、こういう物は自分で選ぶべきですよね」
 和泉さんは、私に雑誌を手渡してくれながら、そう言う。
 重たいビニール袋をテーブルの上に置き、渡された雑誌をぱらぱらとめくる。
 付箋の文字をよく見ると、何か違和感を覚えた。
 例えば、食器類のページに付いている付箋には。
「使い勝手が良い」
「女性向き」
「紺、緑、オレンジあり」
 と、書かれている。
 雑誌に載っている情報は、文字よりも写真が明らかに多く、細かい字ではあまり具体的な事が書かれていない。
 加えて、付箋の内容は雑誌の中身を読んで簡単に分かるものではなく、むしろ雑誌には無い情報ばかり。
「もしかして、ネットで調べ直したんですか?」
「意外と頭回るんですね」
 返ってきたのは肯定の言葉。
 それと、私を下に見た感想。
 どうやら、私は和泉さんから馬鹿者だと思われていたらしい。
 恥ずかしい、そして悲しい。
 何もそこまで言わなくてもいいじゃないかと反発する心と。
 そんな風に思われていたんだという情けない気持ち。
 そんな二つの感情を素早く隠せるほど、私は器用な人間じゃないから。
 和泉さんがまた、私の顔を見て眉をひそめる。
「そんなに落ち込まなくていいでしょう。まるで私が悪者になったみたいじゃないですか。事実を指摘されたくらいで凹まれると、こっちもやりづらくなるんですけど」
 正論すぎて、ぐうの音も出ない。
「すみません」
 気づいたら、口からこぼれた謝罪の言葉。
 和泉さんの前では、この言葉が口癖になりそうだなと予感する。
 もっと大人になって、ちょっとくらいの事には動じない自分になりたい。
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