第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
二階堂さんは、その後あっさりと三つ目のレッスン部屋へ入って行った。
他のアイドリッシュセブンの面々も、それぞれの部屋へ入って行く。
和泉さんからは、すれ違う間際に、
「顔、赤くないですか? 何か問題があるなら、いつでも私に話してくださいね」
と、言われてしまった。
大丈夫です、とその場では答えたけれど。
顔がまだ赤いと指摘された時は、ドキッとした。
他のメンバーには、気付かれていない事を願う。
最後に階段を上がってきたのは、八乙女楽さん。
事務所で調べたとき、なんか見覚えのある顔だなと思って、記憶を探った。
思い出せたのは出前のお蕎麦屋さん。
その宅配してくれた人にとても似ていたのだ。
本人なのではないかと疑ってみたけれど、さすがにトップスターが蕎麦の配達なんてできないだろう、と結論づけた。
でも、今八乙女さんを前にすると、やはりとてもとても似ているように見える。
が、そんな事を指摘して八乙女さんに話したところで、相手も困るだけだと思うから。
ここは大人として、何も触れずにいよう。
「初めまして。小鳥遊事務所所属の山中一華です。アイドリッシュセブンの現場マネージャーとして、お世話になります。よろしくお願い致します」
「初めまして。紡は今日は来ないのか?」
八乙女さんは、辺りをキョロキョロと見回している。
へえ、八乙女さんと紡さんって、すごく仲良いんだ。
私てっきり・・・。
いや、これ以上は無駄で下世話な詮索だな、やめとこう。
「小鳥遊は今事務所におります。本日は、私が皆様のサポートをさせて頂きます。小鳥遊に何か申し伝えございますか? もし宜しければ、代わりに私が承ります」
「いや、伝言はいい」
笑顔を絶やさず、丁寧な言葉で、好印象の新人。
今のところ、私は完璧に演じきれていると思う。
でも八乙女さんは、見るからにしゅんとして、元気なさそう。
まさか私、また何か失礼な事をしてしまったのだろうか。
何がいけなかったんだろう。
「あの、私何か失礼したでしょうか? もしそうなら謝罪致します。ごめんなさい!」
勢いよく頭を下げると、八乙女さんは表情をあまり変えずに。
「大丈夫だよ。アンタ、変わった人なんだな」
それ、九条さんにも言われました。