第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
一度舞台に立ったなら、何があっても最後まで役を降りず演じきる事。
そう言いながら、私に微笑みかけてくれたあの女優さんは、もう居ない。
だから、彼女の言葉達に縛られる必要は無いのだけど。
今でも、私は彼女に天国から見られているような気がして。
死んでしまった人の言葉を守る事を、馬鹿らしいと言う人もいるかもしれない。
でも私は、彼女に教えてもらった事を、大人になった今でも大切にしている。
それが彼女への供養となるように。
まあそんな事は、私個人の問題で、目の前に居る十さんには一切関係の無い事だ。
私情を仕事に持ち込むのは、いけない事だろうけれど。
私情を活かして仕事するのは、別に責められる事じゃないと思う。
「それじゃ、また後で山中さん」
「はい」
九条さんとは別の部屋に入っていく十さんを見送りながら、私はほっと胸を撫で下ろした。
沖縄弁を覚える事にはなってしまったけれど、特に大きなミスや失礼はしていない。
ちゃんと挨拶ができた。
十さんは最初から最後までずっとニコニコだったし、むしろ好印象を与えられたのではないか。
そう思ったら嬉しくなってきて、つい、こっそりガッツポーズを取る。
まさか、それを他の人に見られていただなんて思いもせずに。
「なんか嬉しい事でもあった?」
二階堂さんが、含みのある笑顔で聞いてくる。
私は何も考えられなくなって、階段を上ってきた二階堂さんに駆け寄った。
「今のは、ちゃうんですー! 忘れて下さいー!」
「どーしよっかなー。お兄さん、口は硬い方だけど、一華ちゃんの意外な素顔発見ってメンバーに言ったら、みんな喜んで話に飛びついてきそうだしなー」
ニヤリ。
なんて可愛いもんじゃない。
ニィンマリ。
的な、もっとねっとりした感じ。
挨拶ごときでガッツポーズなんて、めっちゃ子供っぽい。
見られてたなんて、恥ずかしい!
両手で顔を覆って、私は声を震わせながら訴えた。
「ど、どうか。皆さんには内緒にしてて下さい。お願いやから・・・」
「そこまで言うなら、仕方ないなー」
二階堂さんが本当に口の硬い人かどうかは分からないけど、どうか事実であってほしいと祈る。
すごく、なんというか、楽しそうにしてらっしゃるけれど。