第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
レッスン部屋から出てきて、私は肩の力を抜くと共に、盛大にため息を吐き出した。
き、緊張した。
でも、今度こそちゃんと挨拶できた、と思う。
レッスン部屋では、九条さんは荷物からレッスンウェアを取り出して着替える寸前だったようで、ノックして入って良かったと思った。
そして、自分の間の悪さを恨んだ。
もうこんな失態は二度と繰り返さないよう、次からは狼狽えたりしないぞ、と誓う。
九条さんは、着替えを見られる所だったにも関わらずやはり優しくて。
深々と頭を下げながらもう一度挨拶する私を、静かに見守って下さった。
九条さんの年齢は、紡さんや陸くんと同じで、私の四つ下。
あまりに落ち着いた対応に、本当に彼も年下なのだろうかと思う。
陸くんはあんなに素直で可愛らしいのに。
年齢は、あくまでその人を表す数値の一つに過ぎないのだな、と改めて思う。
「山中さんは律儀な方なんですね。ボクの方こそ、年下なので色々と勉強させて頂くと思いますよ。その時はご指導よろしくおねがいしますね」
そんな状況には一生陥らないだろうと思いながら、頭を下げて選んだ言葉を口にした。
「滅相もないです! 私なんて大阪育ちだから日本語も上手く喋れなくて。事務仕事なんか、やった事なかったからいつもミスだらけで。でも、私にできる事は精一杯頑張らせて頂きます! どうか、今日からよろしくお願い致します。
お時間取らせてしまってすみませんでした。失礼致します」
と、言いたい事だけ言って部屋を出てきた。
それが、ついさっきの話。
なんか、また私は墓穴を掘ったような気がしなくもないけれど。
もういい、どうにでもなれ。
私は新人なんだからミスが多いのは当たり前!
うん、しゃーないしゃーない。
・・・とか思っちゃいけないよね。
はあどうしよう本当。
これ以上はもうできる事思いつかないよ。
「あーダメだな私」
またもや盛大にため息をついて、しょんぼり俯く。
挨拶さえも"普通"にできない。
そもそも、私に普通が分かるのだろうか。
あの事が起きて、薄情にも逃げた自分に、普通なんて。
おこがましい。
また自己嫌悪に陥りながら、私はとりあえず、他の部屋の確認に向かった。