第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
――と、思っていたのだけど。
よろしく、と九条さんから差し出された手に、思いきり過剰な反応をしてしまった。
ああ、早速失敗してしまった、やらかした、どうしよう、頭が真っ白け、ハッハ笑えない。
きっと私の顔色は悪くて、表情は複雑なのだろう。
人間関係は第一印象が大事なのに、これじゃあ失礼にも程がある。
今更もう遅いかもしれないけれど、慌てて笑顔を取り繕った。
「よりょしゅくおにゃにゃいします!」
あ、終わった。
握り返そうと差し出した右手が固まる。
そんな私を真正面から見ていた九条さんは、ふっと噴き出して私の手を両手で包んでくれた。
「緊張しなくて良いですよ。面白い人ですね。これから一緒に仕事できるのが楽しみです。今日からお世話になります」
て、てててて、天使・・・・・・!
なんて優しい人なのでしょうか!
手が温かい。
笑顔が眩しい。
めっちゃ良い人やん!
「こちらこそ、至らない点もございますでしょうが、何卒宜しくお願い致します」
ぺこぺこと二回深くお辞儀する。
九条さんは、そのままレッスン部屋にお入りになられた。
そうかこれがアイドルなのかと、一人感心して自分の右手を眺める。
そして、ここでようやく気づいた。
そうか、あれはアイドルなりの社交辞令なのか。
舞い上がっていた頭は、急にクールダウンしてきて、私に現実を思い出させる。
きっと、アイドル流のフォローをしてくれたのだ。
緊張する新入りを見て、密かに戦力外通告をされていた、のかもしれない。
私はひょっとしたら、仕事相手として見てもらえていないのでは、と。
もしそうだったら、私個人の失敗を通り越して、事務所の損害になっているのではないか。
・・・・・・。
右手に強く力を入れて握りしめる。
駄目だ駄目だ、私はお姉さんなんだから、もっとしっかりしないと。
従って今からすべき事は、もう一度、今度は丁寧に挨拶する事だ。
新人がポカして相手先と関係が悪くなりましたー、なんて本当に洒落にならない。
九条さんが入った部屋の前で、大きく深呼吸をすると。
私は、ドアをノックしてもう一度頭を下げた。
「失礼致します。小鳥遊事務所の山中一華です。先程は大変失礼致しました」