第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
「おはようございます、山中さん。お元気そうで何よりです」
「おはようございます。今日の体調は、いかがですか? あまり無理しないで、しんどくなったら、私か万里さんに言って、休憩して下さいね」
大神さんも紡さんも、とっても優しい。
私はこの事務所が好きだ。
みんな、良い人たちばかりで、こんな私にも親切にしてくれる。
だから、私はこのご恩に報いるためにも、頑張ってお仕事を覚えて、メキメキ働いて、お役に立たなくてはならない。
「お心遣い、感謝します。ありがとうございます。でも、もう大丈夫ですから!」
私は、胸の前で両手にぐっと力を入れた。
自分のデスクに座ると、早速パソコンを起動して、データ入力のソフトを開く。
そこでおや? と思った。
データ表から線グラフまで、以前任されていたはずの記録が、全て埋まっている。
私は風邪のせいで途中までしか入力できなかったし、グラフ作成なんて勿論手も着けられていなかったはずだ。
「あの、すみません大神さん。この間の売り上げ表の事なんですけど」
「ああ、それなら、俺が纏めておきましたよ。山中さんに今日して頂くお仕事は、午前が資料の整頓と社内清掃、午後からはアイドリッシュセブンの子達と寮に戻って頂いて、彼らの現場マネージャーをしてもらいたいと思っています。お願いできますか?」
大神さんは、アイドルに負けず劣らずの爽やかな笑顔で、私に尋ねる。
「あ、はい。大丈夫です。承ります。でも」
でも、現場マネージャーって、何をすれば良いのだろう。
それに、寮に戻って、というのはどういう事だ?
思わず首を傾げてしまった私に、紡さんが心配そうな顔で声をかけてくれる。
「もしかして、まだ気分が優れませんか? それとも、何か分からない事でもありますか? 何でも聞いて下さいね。私はまだまだ未熟者ですけど、これでも一応、この事務所の事にはそれなりに詳しいですから。遠慮なく頼って下さい!」
「あ、そうですよね。ありがとうございます」
そうだ、紡さんは社長のご令嬢さん。
それに高卒からこの事務所で働いていて、経験も私よりずっと上なのだ。
アイドリッシュセブンの担当マネージャーでもあるし、紡さんに仕事の事で分からない事なんて、きっとほとんど無いのだろう。
「じゃあ、紡さん。えっと、午後からの私の仕事なんですけど・・・」
