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get back my life![アイナナ]

第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある


 ううん、そんな事はしない、したくない。
 何か引き金を引いたとしても、私は、彼らに銃口を向けたくない。
 三月くんには、本当に悪い事をしたと思う。
 あの時の私は、きっとどうかしていたのだ。
 三月くんは、六弥さんと二階堂さんの三人で、ユニットを組んでいる。
 二階堂さんは、アイドリッシュセブンのリーダーだ。
 もしかしたら、その事についての謝罪や償いを求められているのかも。
 ああ、なんだ、やっぱり私の自業自得ってヤツか。
 突然箸が止まった私に、三月くんが心配そうに聞いてきた。
「どうした一華? 嫌いなおかずだったなら言ってくれよ」
「あ・・・いえ、美味しいですよ。病み上がりやからかな、食欲があんまり無くって。気にせんといて」
 そう取り繕って、スープを啜る。
 また小さな嘘をついて、胸が小さく痛んだ。

 一人で朝食を早めに切り上げて、自分の食器だけ片付ける。
 そのまま通勤鞄を持って、皆さんに声をかけて先に事務所へ向かった。
 中途半端になっていた、タレントさんの売り上げデータ入力が気がかりだったのと。
 通勤経路を覚えられているのか、不安だったから一人でちゃんと出勤したいと思っていたから。
 体はもう、お陰さまですっかり元気になって、処方された薬もしっかり飲んでいる。
 熱はとっくに下がっているし、精神的にも余裕を持てている、と思う。
 現に、今朝は何も言われなかったから、きっと問題ないだろう。
 駅の改札に滑り込み、満員電車に流れ込む。
 東京の朝は、実に静かだ。
 一つ、二つ、と通り過ぎる駅を眺める。
 どの駅に行き交う人にも、それぞれの朝があるのだろうけれど。
 私には、男女の差くらいしか分からなかった。
 私も、最寄り駅に着いて降りる。
 行き交う人の波に揉まれながら、駅から出て歩道に出た。
 ここまで来れば、事務所は目と鼻の先である。
 来れた、迷わずに!
 胸の前で小さくガッツポーズを取る。
 顔を上げて、堂々と胸張って歩く。
 事務所の前まで着くと、満員電車の中で崩れた前髪を軽く払い、適当に整えた。
 扉をくぐり、廊下を進んで、事務室に到着する。
「おはようございます! 長い間お休みしてしまって、すみませんでした!」
 気持ち大きめな声で、開口一番挨拶する。
 大神さんと紡さんには、ぽかんとされてしまった。
 ちょっと恥ずかしい。
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