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get back my life![アイナナ]

第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある


「はい、分かりました。後でご連絡致しますね」
 何とか平静を装って返事できたけれど、内心は全く穏やかじゃない。
 二階堂さんの事を、怖い人だとはもう思っていないけれど。
 以前詰問された動画の事もあって、苦手意識のようなものは、抱えたままだ。
 お酒の席では優しくしてもらったけど、それはそれ、これはこれ。
 何を聞かれるんだろうとか、あれこれ予測する事すら恐ろしい。
 とにかく二階堂さんには、危険信号ピッカピカなのだ。
 今はまだ、何も考えたくない。
 とは言っても、放置できるほど小さな問題でもないから。
 もしも二階堂さんが友好的な態度だったなら、どうにかして状況を上手く把握して、前に進めたい。
 依然として不明瞭な物事は多いし、できるなら全部はっきりさせたい、って気持ちはある。
 鳥居先生なら、色々と答えを持っていそうではあるけれど、素直に応えてくれるとは限らない。
 真実だけを話してくれるとも限らない。
 既に嘘を吹き込まれていたら、それこそ、今の私にはお手上げだ。
 いや多分正直に話してくれるだろうけど。
 こんな風に考えてしまうのは、やっぱり私自身にやましい物があるからだろうか。
 と、グチグチとまた物思いに耽ってしまった私。
 棒立ちになっていると、また環くんに急かされてしまった。
 朝食の用意が整って、みんなで揃ってテーブルを囲む。
 きっと、これはありきたりな幸せの景色で、これからずっと見ていられる景色なのだと思う。
 そんな幸せの輪の中に、自分も入れてもらえている事が嬉しい。
 住む家が見つかれば、私はこの寮をすぐ出ていく事になるけれど。
 今はまだ、この幸せな世界に浸っていたい。
 席に着いて、みんなで手を合わせて、頂きますをする。
 こんな些細な事が、彼らにとってはどうと言う事も無い習慣なんだ。
 まるで、自分の家族の他に、もう一つ新しい家族が増えたような、不思議な空間。
 その中に、入れてもらっている私。
 良いのだろうか、こんなに暖かな世界に甘えてしまっていても。
 良いのだろうか、こんなに優しい世界に甘えてしまっていても。
 私のような人間が。
 何かを壊してしまわないだろうか。
 目の前の花が咲き誇るような笑顔を、摘み取って、踏みにじって、しまわないだろうか。
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