第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
それでも、私に与えられた仕事は、できるだけこなしていきたい。
今日は、風邪が治ったので久々の出社である。
布団から出てスーツに袖を通すと、鼓動が少し早いのを感じた。
また緊張してしまっているのかな。
今日こそは頑張らなくてはという思いが、勝手に心臓を焦らせているのだろう。
纏めた髪と薄い化粧を鏡で確認して、作り笑い。
不細工だ、でも愛想笑いくらいにはなる。
一階まで降りてリビングに入ると、七人全員が揃っていた。
二階堂さんと和泉さんは、テーブルに座ってコーヒーを飲んでいる。
環くんと陸くんは、ソファの上で談笑しているようだ。
六弥さんと三月くんと逢坂さんは、キッチンに立っていて、朝食を作っているらしかった。
「おはようございます、皆さん」
頭を下げて挨拶すると、三月くん逢坂さん陸くんが、こちらを向いて挨拶を返してくれた。
陸くんの膝の上には、よく見ると毛布がかけられている。
今日も冷えるからな、私も気をつけて見てあげないと。
「一華、ちょっと手伝ってくれるか?」
三月くんにそう言われて頷くと、空のスープ皿を手渡される。
快く受け取ると、逢坂さんが軽い説明をしてくれた。
「今日は寒いから、温まるスープをナギくんが教えてくれたんだ。そこの鍋から、人数分だけ器に移して用意してくれるかな?」
六弥さんの手元へ視線を移動させると、いい匂いと温かい湯気が、六弥さんの顔まで上っている。
微かに香るスパイスは、あまり良く知らない調味料。
そういえば、六弥さんは北欧の出身だったっけ、と思いながら。
言われた通り、美味しそうなスープを器に注いで盆の上に置く。
八人分用意すると、六弥さんが盆ごと持って行ってしまった。
私、ほんまトロイなぁ。
何となくしょんぼりしてしまい、慌てて首を横へ振る。
いけない、あんまり暗い顔をしていたら、また仕事をお休みさせられてしまう。
ちらりと和泉さんを見ると、どうやらバレていないようだ。
こっそり息を吐き出していたら、横から二階堂さんが。
「そうだ、ちょっとアンタに話がしたいんだ。今日時間空けといてくれるか? 仕事終わった後で良いからさ」
吐き出したばかりの息が、また喉の奥へ戻ってきて、変な声が出そうになる。
一度瞬きして胸を抑え、私は笑顔を作って頷いた。