第6章 成功の影には必ず何者かの失敗がある
本番までの準備期間というのは、長いようで短い。
数日間の公演のために、全員が集中して努力する。
その努力は、必ずしも報われる訳ではないけれど。
少なくとも、何の足しにもならない結果には、しないように。
あの頃、私は全力で演じて、踊り、歌って魅せた。
大人達が喜ぶ、脚本の中のキャラクターを、芝居の中で息づかせた。
失敗すれば、次の無い世界。
だから「今度」訪れるはずの役のために、一所懸命になった。
あの頃の私は、夢を見続けていた。
叶わない夢だったのだと、諦める日まで、二年間も。
「籠鳥姫」は、私の最後の舞台だった。
脚本では姫と小鳥は、一心同体として表現されていた。
小鳥役の私は、姫役の女優さんと何度も一緒に稽古させてもらった。
女優さんは、お芝居には厳しかったけど、それ以外では優しい人だった。
芝居は生もの、であるならば鮮度を常に保って演じるべき。
幼い私にそう言いながら、良き芝居とは何かを説いてくれた。
まだ子供で分からない事も多い私に合わせて、脚本に込められた物語を教えてくれた。
私は知らなかった、彼女が日々悩みながら稽古場に来ていた事を。
私は知らなかった、芝居は生ものという言葉を、あんな形で思い知らされる事を。
私は知らなかった、彼女が自身の最期を彩る手伝いの為に、私に色々と知恵を与えていた事を。
何も、何も知らなかった私。
ああ悔しい。
あんな思いをするくらいなら、夢なんて追いすがるんじゃ無かった。
過去には戻れない、戻せない。
後悔先に立たず。
間違いに気づくのは、間違えてしまって、全てが終わってしまっていた時。
今の私は、何か間違えてはいないだろうか。
いつも怯えて、体を小さくして、目を泳がせて。
なんて頼りない大人だろうと思う。
大人達に都合の良い子を演じるのは嫌だった。
でも、大人になった自分を心から好きだなんてイチミリも思えない。
私はきっと、あの頃から何も成長していない。
だめだ駄目だと自分を責めて、責めてばかりで解決策を思いつけない、実行できない。
どうして、こんな大人になってしまったのだろう。
――そんな事ばかり考えていたら、あっと言う間に数日がまた終わってしまった。
風邪はすっかり良くなったけれど、心は前より少し重たくなったかもしれない。