第5章 トリガーの襲来
私の風邪は、いつになったら治ってくれるのだろうかと心配しつつ、朝食の食器を片付ける。
私含め、みんなあまり食欲が沸かなかったようで、今日の食器の数はかなり少なくなっていた。
食事中は気もそぞろで、会話らしい会話はほとんどなかった。
まあそんな日もあるのだろうと、私はあまり突かなかったけれど。
あんな空気で食べた朝食は、みんなは美味しかったのだろうか、なんて思ってしまう。
他人の私が口出しするのもちょっと憚られたから、何にも触れずに黙々と食事していた私だが、果たしてそれで良かったのだろうか、なんて。
今更考えても遅い事かもしれないけれど、またあんな空気感のまま、自分だけ知らぬ存ぜぬで見て見ぬふりするのも、なんだか嫌だなと思う。
もし、これから先で同じような事が起こったら、みんな私に気楽に相談してもらえるような間柄になれていたら良いな。
すっかり食器を洗い終えると、綺麗に水気を拭いて棚の中に戻す。
昨晩のお蕎麦屋さんの器を四つ確認して、玄関先まで運んだ。
私は袖をまくって、掃除機と床拭きを取りにいく。
リビングと台所のホコリを簡単に掃いてから、軽く掃除機をかけて、床を磨く。
ある程度綺麗になったなと確認して、浴室とトイレもざっと掃除した。
それでも時間が余るので、廊下を雑巾がけしていると、インターホンが鳴った。
出てみると、お蕎麦屋さんが器を取りに来てくれたと言われるのだが、昨夜見た人よりずっと年寄りで、雰囲気も違う。
その事を不思議に思いながら、お蕎麦屋さんのおじいさんに器を渡した。
昨夜のあの人は見間違いか、夢か何かだったのかもしれない。
首を傾げながらも雑巾がけに戻ると、そんな小さな疑問はすぐに消えて無くなった。
気が済むまで掃除に没頭していると、終わった頃には午後二時になっていて、お腹も空いていた。
コンビニでサンドイッチを買ってきて薬を飲むと、少し眠たくなってくる。
とりあえず寮の中を綺麗にできたので、私は安心してしまって。
うとうと、と自分の部屋で微睡みの中へ落ちていった。