第5章 トリガーの襲来
三月くんは、そのお客さんの顔を見て、なんてもん拾って来るんだ、と言って二階堂さんを軽く叱る。
なんかよく分からないけど、とりあえずお水用意した方が良いかなと思って、私は台所へ向かった。
紙コップを取り出すのも、お水を汲むのも、もうすっかり慣れたななんて思っていると、歌声と共にさっきのお客さんがリビングへやってきた。
二階堂さんは冷蔵庫からビール缶を取り出し、三月くんとお客さんの分も合わせて、リビングへ入る。
楽しそうな皆さんの様子を見ながら、このお水は要らなかったかなと思いながらも、私はお客さんの目の前まで、コップを持って移動した。
「あの、お水いりますか?」
男性はにこやかに笑いながら、差し出した水をさっと受け取り、ぐっと飲み干した。
たぶんお礼を言ってくれているのだろうが、言葉は全く分からない。
どう応対しようか迷っていると、酔っているらしい二階堂さんから一言。
「アンタも一緒に飲む?」
えっ、と思わず声に出して驚いてしまうと。
「なんだよ、嫌ならいーよ。ここは空気読んで、はいご一緒しますって笑顔で俺の隣に座ればいいのに」
と、不貞腐れたような顔をされてしまった。
確かに、折角のお誘いを断るのも、なんだか水を差すようで申し訳ないと思う。
どうせ私はやる事も無いのだ、空気を悪くして一人抜けて部屋へ引き籠もるよりも、お世話になっている皆さんに、お酌する方が礼儀正しいのかもしれない。
「では、お言葉に甘えさせて頂きますね」
私が言われた通り、二階堂さんの隣に腰掛けると、三月くんがビールを開けながら、酔っぱらいの話は聞かなくても良いんだぞ、と声をかけてくれた。
私は、お酒は今回はご遠慮させて頂きますので、と言って三月くんの気遣いに礼を言う。
私は別に、構わないのだ。
だって、ここに来た時の二階堂さんは私に対してすごく壁を貼っていたのに、今はむしろ席を譲って同じ空間に居る事を許可してくれた。
今の二階堂さんなら、私は全然怖くない。
緊張していない私の様子を見て、三月くんは安心してくれたのかビールを飲み始める。
私は席を一度立ってグラスを食器棚から三つ取り出し、自分には新しい紙コップで水を入れて持ってきた。
グラスをそれぞれに渡して、お酌をする。
楽しそうな皆さんの姿に、私まで楽しくなってしまう。