第5章 トリガーの襲来
優しい環くんの左肩をぽんぽんと叩いて、私は明るい声で伝えた。
「今日はいっぱい寝てしまったので、もうすっかり元気なのですよ」
その一言で、環くんはすっかり安心してくれたらしい。
和泉さんは、本当に大丈夫ですよね、と念を押してくる。
私は強く二回頷く事で、アピールした。
それでも懸念が残る和泉さんは、一度携帯をズボンのポケットに仕舞い、私の左手首を握ってきた。
何事か、と一瞬身構えたけれど、脈を計られているだけだとすぐに分かって、大人しくしている。
「・・・熱もなさそうですし、どうやら脈も安定しているみたいですね」
ようやくほっとしてくれた和泉さん。
私の言葉だけでは信じてもらえなかった事に、少しばかりいじけそうになってしまう。
「分かりました、ではあなたは、寮の中の捜索をお願いします。私と四葉さんは、寮の外を探してみますので」
和泉さんの指示に、私はすぐ首を横に振った。
「いやいや、私なら平気やから。和泉さん達が中を、私が外を探すって事にしましょうよ。お二人はアイドルなんですから。環くんだって、その方がええやろ?」
環くんを見上げると、彼は私の目をじっと見返して。
「いちねえ病み上がりだろ。外は、俺といおりんに任せろって。中は、いちねえよろしく」
・・・と、言われてしまった。
「ここであなたが引き下がらないのなら、構わず私達で回りますよ。部屋で待機しているか、寮の中を手伝って頂くのか、どちらを選びますか」
和泉さんと環くんの頑として譲らない態度に、交渉する余地も時間も無さそうだなと思った私は。
結局、折れて寮の中を捜索する事にした。
この季節だ、子猫が体温を冷やしてしまう方が可哀そう。
和泉さんは、猫を見つけたら捕まえて、私の部屋で待っていてほしい、と言った。
外を回って先に自分達が見つけたら、後で報告してくれるらしい。
連絡手段はないので、私の部屋で合流する事になった。
子猫の名前はてんてん、というらしい。
誰かの飼い猫かな。
たぶん、環くんが子猫を捕らえて、首輪辺りの名前を見たけれど逃してしまった、といった感じだろう。
名前が書いてあるなら、住所も記されているかもしれない。
野生ならどうやってママを見つけてあげようかと悩むところだが、人間のママのところへ届けるだけなら、大して手間もかからなさそうだと思った。
