第5章 トリガーの襲来
それは白く細かい粉薬で、聞いた事の無い薬剤の名前が記されている。
「これは、何の薬ですか?」
「ん? 軽いビタミン剤みたいなものだよ。毎食、食前に飲むように。今回はとりあえず一週間ぶんね。無くなる頃にまた渡してあげるから、飲み忘れる事なく必ず服薬するように。じゃあ、アタシは星屑達に挨拶してから帰るよ。またねー」
ひらひらと片手を揺らして、白衣を靡かせ鳥居先生が部屋から立ち去った。
人の神経を逆なでするのがお上手で、私もついムカついてしまうのだけれど。
私が目を覚ますまでそばに居てくれて、こうやって必要な薬を処方してくれる。
常に白衣を身につけていて、今日もどうやらついでに往診してくれたらしい。
そういう点を見れば、やっぱり鳥居先生はお医者様なんだなって思う。
ちょっと、いやかなり、・・・腑に落ちない所だらけだけどね。
風邪が治ったら、鳥居先生にも何かお礼を考えないとな、と思っていると。
コンコンコン。
部屋の扉が軽くノックされた。
何か忘れ物を取りに来たのだろうか、と思いながらドアを開ける。
私の部屋の中を覗き込もうとしているのは、和泉さんと環くんだった。
あれ、鳥居先生じゃなかった?
「すみません、白い子猫を見かけませんでしたか?」
「見てないです、けど?」
答えると同時に、不自然に上がった和泉さんの両手に目がいく。
和泉さんの携帯だ。
構え方を見るに、たぶん写真を見ているのだと思う。
環くんは何を探すでもなく辺りをキョロキョロしており、猫探しにあまり積極的じゃないように見える。
彼の右手には、牛乳の入ったお皿があった。
たぶん、猫用のミルクだ。
「なんで、猫探ししてるんですか?」
「四葉さんが、寮の中に迷い込んだところを見かけたらしいんです。七瀬さんは動物の毛が駄目ですから、早く子猫を保護して、外に帰してあげないと」
和泉さんの説明に、そんな事もあるのだなと思いながら、なるほどと言って相づちを打つ。
「それなら、私も猫探しをお手伝いしますよ。早く見つけて、ママのいるところまで連れて行ってあげましょうね」
私の申し出に、和泉さんは微笑んで受け入れてくれた。
風邪が悪化しないようにと、私は寮の中の捜索を任される。
「風邪、もうしんどくない?」
心配そうに尋ねてくれた環くんに、満面の笑みを見せて答える。
