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get back my life![アイナナ]

第5章 トリガーの襲来


 目が覚めると自分の部屋に運ばれていて、隣には鳥居先生が座っていた。
 気を失う前の自分の事は、詳しくは思い出せなくても、何となくの推察はできる。
 私は、たまにヒステリックになってしまう事があるのだ。
 でもそれは、表面上には決して出す事なく、心の内で溜め込んできた事のはずだった。
 あんな風に相手の考えを決めつけて、一方的に叫ぶような事なんて、たぶん幼い頃以来の事だったと思う。
 私は、自制心の足りなかった自分の先程の行いに、強く後悔していた。
 思わず額を片手で押さえ、やってしまった、と顔を青くする。
 鳥居先生は、私が目覚めた事に気づくと、あまり真剣じゃない顔で声をかけてくれた。
「どうやら、アンタはとても馬鹿な事をしたみたいだね」
 全くその通りです、と答えながら、私は半身を起こす。
 窓を見ると、知らない間に花柄の品の良いカーテンがつけられていて、外の景色は伺えない。
 隙間から陽光が差して来ないのを見るに、おそらくもう夕方を過ぎてしまっているのだろう。
 風邪とはいえ、一日の大半を寝て過ごしてしまった。
 その上、三月くんにあんな姿を見せてしまって。
 いや、うん、もう、ね、どう詫びるべきか皆目見当つかないよね。
 自分の失態にどうやって責任を取るべきか、頭を悩ませていると。
 俯いている私の肩に手を置いて、鳥居先生が尋ねてきた。
「気分はどうだい? まあ、聞くまでもないだろうけど」
「それは体調の事ですか、気持ちの意味ですか。前者なら大したことありませんが後者ならどん底ですよ」
 鳥居先生の顔がニヤついているのを見て、私は素直に顔を歪ませてそう口にした。
 私の言葉に、ケラケラと笑う鳥居先生。
 なんだろう、腹立つ、一発殴っていいかな。
 私が不機嫌なのを見てか、鳥居先生はすっと後ろへ距離を取って、ウェイトウェイト、なんて言ってくれる。
 めっちゃ腹立つ、殴っていいかな。
「くくっ。まあ落ち着いて。アタシはアンタに新しい薬を持って来たし、精神科医に紹介状も書いたんだよ。今日はそのついでに様子見に来たら、アンタが叫び出して倒れたって教えられて、中に入らせてもらったのさ。あ、アンタを運んだのは四葉環くんね。後で礼を言ってあげな」
 嘲笑をもらしながら言う鳥居先生が、私に薬の入った小さな紙袋を渡してきた。
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