第5章 トリガーの襲来
私は笑顔で首を横にふり、どうか気にしないでと答えた。
数日前まで一人暮らしをしていたとはいえ、私は別に男性に対して苦手意識も抵抗も特にない。
だって、普通に父も居たし弟も居たし、お嬢様育ちでもないし。
小中高と全部共学に通ってたし、男の子の友達が一人も居なかった訳ではないし。
もっと言えば、劇団の人は裏方仕事に男の人が多かったせいか、今で言えばセクハラになるような会話だって当時耳にした事もあった。
男性の下着の一つや二つがその辺に干されていても、どうも思わない。
まあ、男性の下着がその辺に普通に落ちてたら、さすがにびっくりするだろうけれど。
「家族と暮らしてた頃は、父のパンツも弟のパンツも洗濯してたから。何なら、量が多くて大変な時は、任せてくれてもええで」
「いやいや、絶対頼まねえから。ただ、一華の洗濯物は、念のため外でやってきてほしいかな。手間だし金もかかるけど、ウチには未成年も居るから。ごめんな? その変わり、食事は出来る限り俺たちが用意するからさ」
「ご飯頂けるなんて、嬉しいです。昨日の朝食も、とっても美味しかったんですよ。毎日あんなに美味しいご飯をわけて頂けるなんて。今日の夕飯も楽しみになっちゃいます」
「美味しいって言ってもらえると、作り甲斐もあるってもんよ。今日の夕飯は俺が作るんだ。予定ではシチューにするつもりだから、一華がちゃんと熱も下がって、食欲も出てきてたら、ぜひ食ってくれよ。ところで、昨日出した朝食の中なら、どれが一番美味いと思った?」
料理を褒められた事がよほど嬉しいらしい三月くん。
その笑顔はとてもキラキラしていて、料理にかける彼の情熱が伺える。
その熱意に押されて、私は昨日頂いた朝食のメニューを一つ一つ思い出す。
「そうですね。一番は悩みますけれど、やっぱりお米が美味しいと思いました。つやつやで、ほくほくで、甘くて。汁物もお魚も漬物も美味しかったので、ごはんも美味しく頂きました。あ、でも卵焼きは私の家とは違う味付けだったので、とても新鮮で美味しかったですね。煮浸しも出汁の香りがよくて、とても素敵な朝食でした。やっぱり、全部、とっても、美味しかったです」
と、結論を出して三月さんに目を合わせると、三月さんははにかむように笑っていた。
もしかして、照れているのだろうか。
