第5章 トリガーの襲来
朝の残りのお粥を少し温めてから頂くと、風邪薬をくっと一気に飲み下す。
逢坂さんが、リビングにある戸棚から救急箱を持ってきて、その中の体温計を渡してくれた。
熱を測ってみると、もう平熱近くまで下がっている。
和泉さんのお粥と鳥居先生の薬で、私の風邪はほとんど症状も無くなっていた。
思えば、咳も鼻炎もなく熱だけ出ていたので、最初からどうという事は無かったのだろう。
それでも、感謝の心は忘れまいと、両手をぴったり合わせた。
体温計を自分で救急箱に直し、逢坂さんに教えてもらって元の位置へ戻すと、タイミング良く玄関から足音が近づいてきた。
「おかえりなさい」
帰ってきたその人に、逢坂さんが笑顔で声をかける。
私もぺこりと頭を下げた。
「ただいま! 一華、ちゃんと寝てたか?」
「三月さんが出てすぐの頃に、一度降りてきましたが、声をかけたら大人しく眠ってくれました」
ね? と優しい微笑みを逢坂さんから向けられる。
私はこくり、と頷きながら。
なんか、ご近所に預けた子供の様子を尋ねる大人みたいな会話をされている、ような気がするなと思った。
うちの子が良い子にしてましたか?
ええ、ええ、ちゃんとパパのお迎えを待ってて偉かったですよー。
・・・的な。
もしや私、お姉さんとして扱われてないのか?
いやいや、三月くんも逢坂さんも私より年下だもの、きっとその辺はさすがに一応の敬意を持ってくれている・・・と思いたいけど、どうなんだろう。
私は三月くんのマグカップを取り出して、お水をいれた。
正直、コーヒーとどっちにしようか迷ったけれど、砂糖やミルクの細かい分量が分からないので、やめた。
三月くんにマグカップを差し出すと、嬉しそうに受け取ってくれる。
「ありがとう。一華って気が効くんだな!」
「私、もっともっと皆さんのお役に立ちたいです。だから、あの三月くん」
寮の中の用事を教えてほしい。
その気持ちがちゃんと伝わるように、三月くんの目を真っ直ぐ見る。
三月くんは顔を反らして頬をかく仕草を見せると、やや間を置いてから苦笑いして。
「分かった。いいよ、教えてやる」
「ありがとう! 頑張るわな!」
嬉しくて、つい大きな声で返事してしまった。
慌てて口に手をやると、すっかり元気になったみたいで良かった、と逢坂さんが口にした。