第5章 トリガーの襲来
両手に握りこぶしを作って、私は元気ですなんでもやらせて下さい、という意思を見せたその瞬間。
ぎゅるるるる~。
と、私のお腹が恥ずかしい程大きな音を立てた。
(なんで、何でこんなタイミングで鳴るんや)
せっかくやる気満々やったのに、こんなんかっこ悪すぎるやん!
顔が真っ赤になりながら、両手でお腹を押さえる。
目の前の逢坂さんは、こらえきれないと言うようにクスクス、クスクス、笑ってらっしゃる。
いっそ三月くんみたいに大笑いしてくれた方が、恥ずかしさはマシだったかもしれない。
必死に笑いをこらえようとして、肩が小刻みに震えている逢坂さんを見てると、私の恥ずかしさは二倍にも三倍にも膨れ上がっていった。
「あ、えっと、これはその・・・。すみません、お先にお昼頂いても良いですか?」
ぼそぼそと小声になりながら聞いてみると、そんな私の様子までもが逢坂さんには面白く見えたのか、ついに体ごと背けられてしまった。
痙攣のように震える肩を見て、何となく携帯のバイブレーションのようだと感じる。
恥ずかしさは一周回って、逢坂さんの呼吸の心配に変わった。
逢坂さんのマグカップに水を入れて、後ろから差し出す。
「あの、すみません。大丈夫ですかー?」
背中をさすりながら声をかけると、逢坂さんが申し訳無さそうな顔でコップを受け取った。
「ごっ、ごめんね? わざとじゃ、な、無いんだよ?」
笑いながら言われましても、こちらは複雑な思いになるだけなんで、早く笑うのをやめて下さい。
プルプル震えて水を飲むのもままならない逢坂さんを見て、これはさすがに私悪くないよね、と感じた。
少し待っていると、逢坂さんは笑いを堪える事に成功したようで、水を美味しそうに飲み始めた。
ただ、私と目を合わせるとまた笑ってしまいそうになるらしく、一言断りを入れられてしまった。
別にそこまでして笑いを回避してほしい訳ちゃうんやけど。
というか、こういう場合はむしろ笑ってくれた方が救いになる。
関東の人だから、そういうのは失礼にあたると思われてるのかもしれない。
何でもかんでも笑えば許される風の関西の文化で育ってきた私としては、逢坂さんのそういう真面目さは、ちょっとやり辛さを感じる。
まあ、気を遣ってくれる人は私の事をあまり詮索しないので、その点はラクさせてもらえるのだけれど。
