第1章 落ちて拾われて
ぐるんぐるん、という衝撃を感じて、はっと目を覚ます。
場所は車の後部座席、体にはシートベルト、運転席にはガッツポーズの紡さん。
「あ、起こしちゃいましたか? すみません、私まだ運転が慣れてなくて。でも、これから上手くなります! 頑張ります!」
「へ? あ、うん。ファイト、です?」
よく分からない意気込みを聞かされた。
先に降りて待っていてほしいと言われたので、少し外で待機。
さっきよりも更に寒い。
耳当てとかマフラーがほしいな。
三階建てのよくある建物。
外装に真新しさは見られず、かといって古めかしい訳でもない。
中からは時折、楽しそうな声も聞こえる。
温かそうだなぁ。
建物をぼんやり見上げていると、車を停めてきた紡さんが戻ってきた。
お待たせしました、と言って小走りで来る紡さんは、なんか兎みたいにぴょこぴょこしてて可愛い。
それだけで胸がほっこりと温かくなった。
「えっと、山中さん。ここが、しばらく山中さんに過ごして頂く寮になります。急なお話でしたので、泊まって頂くこの寮には、今はうちの所属アイドルだけが住んでいるんですけど、大丈夫ですか?」
「アイドルの方に迷惑にならないようにすれば、いいんですね?」
「それは、確かにその通りなんですけど」
紡さんがインターフォンを押すと、男の子達の声が返ってくる。
住んでる人は一人じゃないって事か。
まあ、寮なんだから当たり前かな。
「こんばんは、一織さん」
「こんばんはマネージャー、どうぞ中へ」
ドアを開けて顔を出した黒髪の少年には、見覚えがあった。
「あ、恩人の和泉さん! 昼間はありがとうございました!」
嬉しさのあまり、思わず勢い良く頭を下げてお礼を言う。
でも、和泉さんの表情は芳しくない。
あれれ?
「マネージャー、誰ですかこの不審者めいた方は」