第1章 落ちて拾われて
和泉さんは現役アイドルで、紡さんはそのアイドル達のマネージャーらしい。
和泉さん達が普段過ごしているのがこの寮で、三階には誰も住んでいないから大丈夫だろう、と鳥居先生が話を持ち込んだと言う。
マジであの先生、めちゃくちゃだな。
お陰で職と家には困らなくなったのも、事実なのだからちょっと私も申し訳ない。
和泉さんに覚えててもらえなかった事は、ちょっぴり残念だけどね。
仕方ないっしょ、うんうん。
紡さんの無駄ない説明で、寮の中に通された。
明るく清潔で、住み心地も良さそうだ。
何より、とても温かい。
明るい照明の下だと、私の作業服の汚れがよく見える。
脱いだ方が良いかもしれないけど、風邪を引くのも嫌だ。
ここは恥をさらす方を選ぼう。
少し歩くと、共同スペースに着いた。
キッチン、ソファー、テーブル、テレビ。
視界に映る情報から察するに、ここはリビングとして使われているんだろうな。
キッチンの流し台には、茶髪の男の子が立っている。
エプロン姿のその子は、私達に気づくと笑顔を向けてくれた。
はつらつとした上がり眉に大きなオレンジ色の瞳。
頭のてっぺんから伸びた一本のアホ毛は、男の子の動きに合わせてひょこひょこと揺れる。
なんとも可愛い少年だな!
「こんばんはマネージャー。あと、お客さんかな? いらっしゃい」
「こんばんは三月さん。こちら、明日から社員として働いて頂く山中一華さんです。急な話で申し訳ないのですが、山中さんをここに住まわせて頂けませんか?」
話を進めてくれる紡さんの横で、できるだけ背筋を伸ばして頭を下げた。
こんな服装じゃ格好つかないだろうけど、一応。
「もしかして、鳥居先生が言ってた人か?」
腰に両手を当てて三月くんが尋ねてきた。
お医者さまは随分と手が早い事で。
もう驚かへん。
「悪いけど、まだみんなには話してねぇんだ。ちょっと呼んでくるから。一織、マネージャーと山中さんを頼む」
「分かりました」
頷いた和泉さんを確認して、三月くんがキッチンを出ていく。