第5章 トリガーの襲来
はっと目を覚ますと、私は布団から上体だけを起こした。
冷や汗が私の体全体を覆い、背筋は寒く、肩を縮こませる。
ぶるりと大きく身を震わせて両腕で自分の体を抱きしめると、私はさっきまでの光景が夢だった事に、気がつき始めていた。
実際の記憶とは違うけれど同じところもある展開が、妙にリアリティーを持って脳裏に焼き付いている。
あんな過去の記憶に、いつまでも捕われていてはいけないとは分かっていても、未だに引き摺っている自分がいる事は、こういう時に実感してしまう物だ。
最悪の悪夢を見て、私はしばらく震えを抑えられなかった。
ふと窓の外に目をやると、家々の壁が明るく照らされており、今がちょうど昼なのが分かる。
冬は他の季節に比べて日照時間が少ないから、もしかしたら外の寒さが移って、私も震えているのかもしれない。
とはいえ冬本番の二月はもう少し先だから、今の時点で寒がっているようじゃ、冬を越せないかもね、なんて考えていた。
やや現実的な現実逃避をして、体の震えは次第に治まってくれる。
ふう、と安堵の溜め息をつくと、私は肩に温かそうなブレザーを羽織ってから、部屋を出た。
階段を降りてリビングまで来ると、逢坂さんがキッチンに立っていた。
よく眠れた? と尋ねられたので、私はおずおずと頷く。
「はい、おかげ様でぐっすり眠れました。すみません、お手を煩わせてしまいましたよね。逢坂さんは今日お休みだったんですか?」
悪夢を見たとはいえ、確実に二、三時間は眠っていただろうから、嘘は言っていない。
逢坂さんの予定を伺うと、彼は柔らかい笑みを浮かべて答えてくれた。
「僕は今日、環くんの学校が終わるまで自由時間だったから、最初から寮の中で昼過ぎまで過ごす予定だったんだ。気にしなくても良いからね。三月さんは、多分そろそろ帰ってくるだろうけど、一華さんはまだ部屋で休んでた方が良いのかな?」
「いえ。出来ればそろそろ、寮のお手伝いをさせてほしいです。起きたばかりなので、体力は有り余ってると思いますから」
おそらく私の体調を気にしてくれただろう逢坂さんに、自分の意思を伝える。
話を整理して聞いていれば、どうやら午前休だったらしい逢坂さん。
いつも休みの時は、彼が寮の中を綺麗にしてくれているのかと思うと、午前中眠ってしまった事が少し申し訳ない。
