第5章 トリガーの襲来
正負が入り混じった感情の演技を、女優は完璧に演じて見せた。
複雑なその心情を、足運び一つ、指の動かし方一つにまで込められている。
観客達は、女優の演技に魅了されるかのように、知らず溜め息をこぼしていた。
「ああ、鳥さん達。今日も私のお話を聞いてくれるかしら? 魔女と罵られる私のお話を――」
舞台の中で一段高いところに建てられた塔のセットの中、女優がそこへ厳かに腰かけると、ついに私の出番になる。
舞台袖の左下より、長い指示棒のような物の先についた白い鳥の模型が、軽い羽音の効果音と共に塔のそばへ移動する。
鳥の模型は実によく出来ており、効果音に合わせて翼を震わせていた。
「ピー、チチチ。お聞かせ下さいお姫さま。今日も一緒にお話しましょう」
これは私のセリフ。
一瞬暗転を挟み、私は舞台上へ移動した。
塔の鉄柵を挟んで、小鳥役の幼い私と、お姫さま役の女優が向かい合う。
再び照明が戻ると、鳥の模型があった場所に、白いワンピースと羽の飾りを纏った少女が現れた。
照明は舞台全体を照らすのではなく、中央奥の塔と姫と鳥の少女だけにスポットライトを当てる。
これで、籠鳥姫の目に映る世界では、小鳥が幼い子どもの姿で見える事を、表していた。
ここからは、小鳥が落ち込む姫の為に、歌と踊りをプレゼントするシーンに入る。
姫を勇気づけるセリフと共に、小鳥の衣装を着た他の子役達が、舞台に上がって華麗なターンとステップを披露する。
私もその輪の中に混じり、小鳥のダンスが終わる。
歌唱パート、一番の盛り上がりを見せる一節で、小鳥役が全員片膝をつき、姫に向かって手をかざす。
「今こそ、前を向いてー♪」
ここで、姫が小鳥達と声を合わせて歌う。
――はずだった。
「いいえ。嘘よ」
周りで一緒に踊っていたはずの子役達の姿はなく、姫役の女優が真っ赤に染まった短剣を手に持ち、頬まで血のりでべっとりと赤く塗りたくられていた。
私の胸は激しく痛み、衣装は白いワンピースだったはずなのに、濃い赤色で、破れた裾からはポトリポトリ、と水の滴る音がしている。
嗅ぎたくない匂いに顔をしかめて、その場から動けなくなる私を、姫役の女優が冷たい顔で見下ろしていた。
「逃げられないなら、こうするしかないじゃない」
頬を涙が伝う。
ああ。
最悪な夢だ・・・。