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get back my life![アイナナ]

第5章 トリガーの襲来


 すぐに家事に取り掛かりたかったけれど、三月くんはこれからレッスンのため事務所へ向かうらしく、戻ってくるまでは少し時間がかかると言われた。
 それなら一人で勝手に洗い物やら掃除やらをさせてもらおうと考えていたけれど。
「一応言っておくけど、一華がちゃんと休んでるか、壮五に見ててもらうからな。俺が帰ってくるまでは、絶対横になって、体力回復させとけよ!」
 ――と、びしりと指をさされて言われてしまった。
 三月くんが寮を出て行った頃を見計らって、こっそり台所に立とうとすると、階段を降りている途中で逢坂さんに見つかってしまい。
「そんなにコソコソと足音を消して、一体どこへ行くつもりなの・・・?」
 逢坂さんの背後に、何か形容しがたい黒いオーラのような物を感じて、即座にビビった私は慌てて部屋へ引き返してきたのだ。
 逢坂さんの見張りなんて、当然優しい物だと思い込んでいた私の肝は、あの一瞬あの一声で瞬間的に冷え切った。
 まさか、逢坂さんがあんなにも怖い人だったとは。
 と、そんな試行錯誤もしてみたのだが、私は見事に床に戻る羽目になってしまったのである。
 逢坂さんの見張りは、とてもじゃないけど私には突破出来そうにない。
 ならば言われた通り、今は休んでおくしかなかった。
 私は化粧を落として、動きやすそうな服を見つけてそれに着替える。
 なんとも幼いアニマル柄のパジャマではあったが、フリフリのブラウスとスカートよりは、まだこちらの方がマシだ。
 簡単には寝付けないだろうと思っていたけれど、お粥のおかげか薬のおかげか、私は素早く眠りに落ちていた。

 気がつくと、私は夢の中に居た。
 満員の劇場、舞台の上、一人の若手女優が両手を広げる。
 眩しい照明に当てられて、女優が優雅に微笑んだ。
「ああ、お父さま、お母さま。あなた達はとても酷い人です。私を一人、こんな寂しい塔の中に閉じ込めた。私の何がいけないというのです? 私はただ、鳥さん達とお話ができるだけ。私はただ、普通のお友だちに恵まれていないだけ。ただそれだけなのに、あなた達は人々の噂を恐れて、私をこんなところに閉じ込めた。どうして、ああ、どうしてなのでしょう?」
 女優は生き生きと演技する。
 両親の仕打ちに悲しみながらも、心から責める事はできない。
 自分の境遇を憐れんでいながら、受け入れてもいる籠鳥姫。
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