第5章 トリガーの襲来
大笑いする三月くんの声が、私の頭を一杯にする。
ごめんごめん、と謝ってくれるけれど、絶対そうは思っていない、って感じた。
三月くんは目尻の涙をすくって、ようやく笑うのをやめた。
私はもう、恥ずかしいを通り越して少し怒りすら覚えている。
どちらが理由であれ、私の顔は赤くなっているだろう。
「あの、もう薬も飲んだので、私もそろそろ出ますね。今日は三月くんはお休みですか?」
鞄の中身をチェックして、忘れ物が無いか確認すると私はそのまま立ち上がった。
沢山食べてから薬を飲んだせいか、体がとても軽くなった気がする。
この調子なら問題なく今日も出勤出来そうだと安心していた私の背中に、胡座のまま三月くんが言った。
「何言ってんだ? 休むのは俺じゃなくて、一華の方だろ。今朝連絡入れたって、お粥持ってきた時に言ったじゃねえか。だからスーツでいる必要はねーぞ? 大人しく普段着に着替えて、化粧も落としてちゃんと布団に入っとけよ」
「・・・今、何て言うたんや?」
振り返って、三月くんが言った事が信じられず、私は聞き返す。
三月くんは救急箱から体温計を取り出し、私に差し出した。
「熱がまだ下がってねえだろ。自分で見てみろよ」
そんな、私はこんなに元気なのに。
それなら平熱である事を見せて、行かせて下さいって頼もう。
私は三月くんから体温計を渡してもらって、じっと待つ。
ピピ、と音がなって、体温計の数値を確認すると。
――三十七度五分。
「ほら、微熱だからまだ私出勤できます!」
「無理すんじゃねえって! 微熱でも立派な風邪だろ、駄目に決まってるからな。とにかく一華が休みなのは絶対な。何もしないで寝とけって言いたいところだけど。しかたねーから、寮で覚えてほしい事を後で教えるからさ。とりあえず、今は体を休ませるのが先な。分かったか?」
休みが決まっていたなんて。
私の欠勤連絡は一体いつ、誰が、誰に勝手に伝えたのだろうか。
「分かりました。では、家事は私がやりますので」
私は仕事するのを諦めて、三月くんの言ったように従う事にした。
家事でお役に立つくらいの事は、させてほしい。
これだけは譲れない。
「本当、一華は真面目なヤツだなぁ」
「三月くんにそう言われたの、二回目な気がする」
「安心しろって、これは褒め言葉なんだからな」
