第5章 トリガーの襲来
でもこの時の私は、いつかの未来に自分ができる事を考えるよりも先に、三月くんが言っていた事をよくよく思い出すべきだった。
最初の勘が見事に当たり、私が食べ終わってすぐに三月くんが部屋の扉をノックしてきた。
ドアを開けると、白い救急箱を片手に、三月くんが部屋の中へ入ってくる。
「薬はちゃんと飲んだか?」
すみません、これからすぐ飲みますから。
風邪薬を水で流し込み、軽くなった盆を三月くんに見せる。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。作り方を後で教わりたいので、誰が作ってくれたのか教えて頂けますか?」
「そっか、それは良かった。一織が一人で作ってたから、アイツが聞いたら喜ぶぞ。今日も学校があるから環と一緒にさっき出て行ったよ。帰ってきたら多分顔出すと思うから、そん時に直接言ってやってくれよな」
三月くんは、鍋の中が半分以上無くなっているのを見て、とても嬉しそうに笑っている。
弟の事を褒められて素直に喜ぶ彼の姿に、やはり仲の良い兄弟だなと思えた。
「さて、じゃあ足の怪我見せてもらうぞ」
「あの、こんな傷どうって事無いので、わざわざ手当てして頂かなくても構わへんのですよ」
ダメ押しなのは分かっていたけれど、それでも傷を見せるのは抵抗があって。
最後のあがきに言った事は事実なのに、三月くんは引き下がってくれなかった。
「何言ってんだよ。病人なんだから遠慮なく頼れって」
まあ、優しい彼ならそう言うよね。
私は目を閉じて、軽く溜め息をついた。
「出来れば、あまり見られたくないのですが」
と言って、ズボンの裾を少しだけまくる。
三月くんは床の上で胡座をかいて、救急箱の蓋を開けた。
中から大きい絆創膏と消毒液を取り出すと、懐かしい、と呟いて話を始めた。
三月くんが言うには、彼ら兄弟にも幼い頃はあったと言う。
四歳差というのは、大人にとってはあまり変わらないように思われる事も多いかもしれないが、本人達からすれば年が幼い頃は特に大きく感じるものだ。
弟が母親のお腹に宿った時から、お兄ちゃんとして我慢する事を強いられてしまう事もあった。
兄弟で遊ぶ時、少し先に産まれた上の子は、その分身体能力の成長がある。
だから一緒に遊んだ時に怪我をするのは決まって、兄の背を追いかけた弟の方だった。