第5章 トリガーの襲来
夜が明けた。
小鳥がさえずる声を聞く前に目を覚ましていた私は、鏡で自分の顔を確認していた。
あれから熱が下がる訳もなく、寝ようと思って簡単に寝付ける訳もなく。
気がついたら時間が無駄に過ぎてしまっていただけの話で。
昨日よりも更に酷い顔をしているのを、どうやって誤魔化そうか考えていた。
化粧である程度は隠せるけれど、それも限度がある。
あまり厚塗りにすれば違和感が出てしまうだろうし、かと言って薄化粧ではどうしても寝ていない事がバレると分かっていた。
私は当然、今日も出勤するつもりでいる。
休む理由が特になく、休んでいても悪い考えばかりに気を回してしまいそうだから、何かしていた方がラクなのだ。
となれば、私の風邪が治ったように見せなければいけない。
そして陸くんに移さないよう、細心の注意をはらって立ち振る舞わなければならないのだ。
まだ朝日も差し込んだばかりで、時間はたっぷりとあるけれど。
どう考えても、上手い隠し方が思いつかない。
というか、色々考えるのが面倒で疲れる。
鏡の前に座ってから、私は何度目か分からない溜め息を吐き出した。
できる事なら、何もしたくない。
化粧も、身だしなみも、仕事も、食事さえ、ただ面倒くさい。
でもそれは許されない事だ。
私はこの知らない世界の中で、寮の一部屋を借りて、住まわせてもらっている身。
我がままも贅沢も言ってはいけないし、思ってもいけない。
だから、がんばらないと。
気だるい感情を見ないフリして、ファンデーションで白く塗りつぶした。
身支度を済ませ、髪を纏め上げた頃にもなると、窓の向こうはすっかり朝の景色に染められていた。
時刻はたぶん七時過ぎくらいだと思う。
三月くんが、朝に弱いらしい環くんと二階堂さんを起こしている声が、下の階から聞こえた。
私はというと、鏡の前で落ち着きなく、目元を確認したり、横顔を見てみたり、とにかくじっとして居られずにいた。
結局、化粧は厚塗りする事を選んだけれど、どうも慣れない馴染みのないメイクをしたせいで、色々なところが気になって仕方がない。
とはいえ、化粧はただ足し算すれば良いものではないから、これ以上手を加える訳にもいかなかった。
また少し、肌が荒れ始めているのが分かっていたから、余計に自分の鼻やら額やらに目がいく。
もどかしい。
