第11章 秋季昇格試験
征十郎からの指示通り、体育館を出ずに扉の近くに座る
帰らなかったあたしを見た彼は振り向いてテツヤに「いくつか質問してもいいかな」と話が始まった
「…なるほど、やはり面白いな
初めて見るよ、キミほど…バスケットボールに真剣に打ち込み、その成果が伴ってない人は」
『征十郎、それ貶してる』
征十郎の言葉にショックを受けたのか、固まっているテツヤ
当たり前だと思う。昇格を諦めて退部を勧められたその日にそんなこと言われたら誰だってショックどころか怒ると思う
「すみません…ちょっと今、その言葉を受けとめることができる精神状態ではないです」
「ああっすまない、そういう意味ではないんだ。オレは感心しているんだよ」
ふいっと顔をあげるテツヤ、その表情は少しびっくりしているようだ
「運動能力は低いが、運動神経は悪くない。頭が悪いわけでもなく、スポーツIQはむしろ高いと言っていい
キャリアと練習量も、十分経験者と呼べるものだ。にもかかわらず…キミを見てもなにも感じない
これは極めて特殊なことだ。普通どんな人間でも何かスポーツをある程度やりこめば、強弱の差はあれ、経験者特有の空気が出る、出てしまうものなんだ」
1度言葉を止めこちらを見る征十郎。何か用があるのかと身構えるが、視線をテツヤに戻す
そこで気づく。なぜあたしはここで座らされているんだろうかと、帰ってもよくないかと思うが彼から許可は下りていない。とりあえず待つことにする
「平たく言えばキミは日常生活に限らず、スポーツ選手としても存在感があまりない
繰り返すが、これはとても特殊なことだ短所ではなくむしろ逆
これはキミの長所だ。生かすことができれば必ず大きな武器になる」
「存在のなさを生かす…?そんなこと…できるんですか?」
「…悪いが…オレに言えるのはここまでだよ
なぜなら今言ったことはバスケの既成技術を教えるのとは違う。まったく新しい型を生み出すということだ。そのためには自分で試行錯誤しなければいけない
今までにない新しい型を貫くには信念がいる。仮に教えることができたとしても半信半疑でなすぐ折れてしまうからね」
そう言いながら彼はこちらに歩いてくる。帰ることを察したあたしは立ち上がり彼のカバンを持つ