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【黒子のバスケ】トリップしたけど…え?《1》

第70章 さよならを




赤司side


「名前ちゃ、ん」

ふわりと髪を揺らして体育館の床に力なくへたり込む桃井の目からは涙がボロボロと落ちる

声をかけたかったが今のオレにはそれを出来るほどの余裕はなく、気を抜けば彼女のように崩れ落ちてしまいそうだった


「名前っちの悪い冗談っスよね?またどうせ笑いながらオレのこと犬とか言って出てきて…今なら許すから、許してあげるから、早く出てこいよ!」

「黄瀬ちん、爪の跡ついちゃうよ」

「…どうでもいいっス」

「赤司!何で止めなかったんだよ!」

「…オレもそれが出来たら止めていたよ」

「青峰、赤司に言っても無駄なのだよ」

「緑間は辛くねーのかよ」

「青峰君、察しましょう。みんな大切な人が居なくなったら辛いハズです」

「っ、」

「…辛くないわけ、ないのだよ」


黄瀬は力強く拳を握りしめている。その手の中に何が入っているかは知っているし、なだめる紫原には余裕無さそうだった

青峰は黄瀬と同じ行動を、何かを誤魔化すように眼鏡のグリップを中指であげる緑間の目は少々赤くなっており、黒子は目尻に涙を浮かべている

それほど名前はオレたちの中で大事で、大切な存在で、なぜ彼女が消えてしまったのかなんて、理由何も分からない

思えば橙崎に拾われたのも急に現れたと当時を振り返りながら、鼻を啜る音だけが響く空間に佇む


「…とりあえず、外へ出ようか」


一体どのくらい放心状態になっていたのか、彼らを促し無言で外へ歩き出したみんなの最後尾をついていく

振り向けば「じゃーん実は肝試しでした!」なんて言う彼女がいるんじゃないかと淡い期待を抱いて首を動かしてみた


「…名前」


彼女がへたり込んでいる姿が見えた気がして名前を呼んだが、誰も居ない

幻覚が見えるなんて重症だと、彼女と最後に触れた唇を撫でる


「赤司君?」

「…ああ、すまない」


右手にある名前からもらったリボンを握りしめて、外へ出たと同時に涙が頬を伝う

誰もいなくなった体育館はまるで何事もなかったかのように静かだったが、そこには名前との思い出が詰まっていた








               -Fin-


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