第70章 さよならを
『痛っ!!』
大きな音を立てて落ちたのは学校の階段
この世界にとってはたった数秒のことなのだろう。久しぶりの景色はあの日と何も変わっていない
懐かしい制服についた埃を払い、今まで起きていたことは夢だったのかと疑いながら溜め息を吐く
『…やっぱり、夢だったのかな』
背中が痛いが我慢して起き上がり、どっかに飛んでいった携帯と確かこの日に購入していた漫画を探していると視界に入ったものが気になった
元々使っていたカバンのファスナーが開いた状態で倒れている
空いている隙間から少し顔を出している見慣れていたそれに気が付いて、急いで駆け寄った
『これ、帝光の指定ネクタイ…!』
少し量が多く、数えていくと途中リボンもあって合計は7本
数からして彼らの物だと、誰が誰のものか確認し、胸元でぎゅっと握りしめて夢ではないのだと確信する
頬に一筋の涙が流れたとき、あたしを呼ぶ声が聞こえた気がして後ろを振り向くと誰も居ない
そう言えば結局彼らと卒業式の後写真を撮ることは出来なかったなと思い出すが、今はこの記憶とこのネクタイだけで十分だ
胸元にある7本のネクタイを握りしめ、流れる涙を拭い1人歩き出した