第70章 さよならを
「名前っち消えないで!消えないで…ほしいっス」
『それは無理かな。でも右耳のピアス大事にしてね』
「苗字…待っていると言ったはずなのだよ」
『じゃあもう少し待っててよ。追い付くから』
「…約束なのだよ」
渡したピアスを握りしめながら号泣している涼太に笑っていると緑間が小指を立ててくる
まるで子供みたいだと彼の指に小指を巻き付け、片手で涼太の頭を撫でた
「おい苗字」
『…そんな怒んないでよ』
「待っててやっから…早く帰ってこいよ」
『うん。努力するね』
「名前ちん何で消えんの?」
『ええ…運命だからかな』
「じゃあ運命変えればいいわけー?」
『うん』
「…頑張る」
『うん。応援してる』
目は赤いが泣いていない2人、こいつらがバスケ部をサボることがなくてよかったなあと考えながら、背の高い2人の頭を撫でると、不服そうだが笑ってくれた
「名前さん」
『…高校一緒に行けなくなっちゃったね』
「後から来てくれても許します」
『じゃあ許してもらえるように頑張ってみる』
「名前ちゃん、何で…!」
『泣かないでさつき。これからあたしの代わりにキセキ達支えてあげてよ』
「…名前ちゃんも手伝ってね?」
『もちろん。一緒に遊びに行く約束もしてるしね』
ようやくさつきの涙を拭えると彼女の頬に伝う水を親指で撫でる
テツヤと一緒に、いや叶うならみんな一緒に高校を通いたかったがしょうがない
泣いている彼の涙もさつき同じように拭った
「名前」
『…征十郎』
「オレも、名前のことが好きだよ」
『本当?』
「ああ」
『…ありがとう。ごめんね』
ふわりと征十郎に笑みを向けた瞬間にあたしの意識は薄れていく、最後に見えたのは彼の笑顔だった
ああ、最後が泣き顔じゃなくて良かったと今日1番の、今まで笑顔で笑う
『また、会おうね!』